2025年03月20日
【映画評】ドマーニ! 愛のことづて

イントロダクション
本国イタリアで600万人を動員!映画『バービー』『オッペンハイマー』を押しのけて空前の大ヒット!
本国イタリアで600万人を動員し、世界的に大ヒットを果たしたハリウッド映画『バービー』『オッペンハイマー』を押しのけて、2023年のイタリア国内興行収入ランキングNo.1の大ヒットを記録。イタリア歴代興行収入ランキングでも、あの『ライフ・イズ・ビューティフル』を抜いて第5位となった。さらに、イタリア版アカデミー賞と言われる第69回ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞では最多19部門にノミネートされ、主演女優賞、助演女優賞、新人監督賞、脚本賞の主要4部門で最優秀賞に輝いた。メガホンを取ったのは、『ジョルダーニ家の人々』(10)や『これが私の人生設計』(14)などシリアスドラマから大衆的なコメディまで幅広いジャンルの映画に出演するなどイタリアの国民的コメディエンヌ兼女優として活躍するパオラ・コルテッレージ。本作で遂に映画監督デビューを果たした。パオラ・コルテッレージ監督が描いたのは、戦後で荒廃したローマで逞しく生きる市民たちと権利を渇望する女性たちの姿。愛する娘の将来と夫の暴力に悩む主婦・デリアをパオラ・コルテッレージが自ら演じ、自らの権利と次世代への想いを“とある手紙”に託す。パオラ・コルテッレージ監督は現代にも通じるテーマを巧みなストーリー展開とユーモラスな演出で見事に描き切った。
ストーリー
1946年5月、戦後まもないローマ。デリア(パオラ・コルテッレージ)は家族と一緒に半地下の家で暮らしている。夫イヴァーノはことあるごとにデリアに手を上げ、意地悪な義父オットリーノは寝たきりで介護しなければならない。夫の暴力に悩みながらも家事をこなし、いくつもの仕事を掛け持ちして家計を助けている。多忙で過酷な生活ではあるが、市場で青果店を営む友人のマリーザや、デリアに好意を寄せる自動車工のニーノと過ごす時間が唯一の心休まるとき。母の生き方に不満を感じている長女マルチェッラは裕福な家の息子ジュリオからプロポーズされ、彼の家族を貧しい我が家に招いて昼食会を開くことになる。そんなデリアのもとに1通の謎めいた手紙が届き、彼女は「まだ明日がある」と新たな旅立ちを決意する――。
パオラ・コルテッレージ監督オフィシャルインタビュー
Q:映画のアイデアはどのように生まれ、どんなことを伝えたかったのでしょうか?
この映画のアイデアは、戦後すぐの時代に生きた人々の物語を描きたいという思いから生まれました。祖母や叔母、両親から聞いた話には、喜びと悲しみ、面白さと悲劇が入り混じっていました。彼らが目にしてきた人生には、親族や近所の人々、路地裏の子どもたちの物語がありました。その中で、女性たちはしばしば「当たり前」として受け入れざるを得ない抑圧に直面していました。この映画では、そんな女性たちの絶望と、その中に芽生えた小さな希望を描きたかったのです。
Q:脚本作りで、どのような協力を得ましたか?
家族の物語から多くのインスピレーションを得ましたが、歴史的な文脈を正確に描くために、歴史研究者であるテレーザ・ベルティロッティさんにご協力いただきました。幼い頃から、戦後を舞台にしたモノクロ映画をよく観ていた影響もあり、その時代を真に描くときは自然と白黒のイメージが浮かびました。脚本では、当時のネオレアリズモ(イタリアのリアリズム映画)のスタイルを取り入れつつ、ラブストーリーを中心に展開する「ネオレアリズモ・ローザ(ピンク・リアリズム)」にも触発されました。映画の冒頭では、4:3のスクリーン比を使用し、昔の映画の雰囲気を再現していますが、その後は物語が広がるにつれて画面比も変化していきます。
Q:デリアというキャラクターについて、どのように構築しましたか?
デリアは、当時の多くの女性たちと同じく、自分の人生を選択する自由がありませんでした。彼女にとって唯一の願いは、娘が良い結婚をして幸せになることでした。しかし、娘マルチェッラの姿を通じて、デリアは自分たちの運命を変えなければならないと気づきます。
Q:イヴァーノという支配的な夫のキャラクター作りについて教えてください。
脚本段階では、イヴァーノを非常に厳しい性格の男性として描いていました。しかし執筆を進めるうちに、彼は単なる暴力的な人物ではなく、時に愚かで滑稽な一面も持つ「普通の男」として描かれるようになりました。この二面性を表現するためには、ヴァレリオのように幅広い演技力を持つ俳優が必要でした。彼は役柄を深く理解し、そのニュアンスを見事に表現してくれました。
Q:キャスティングはどのように行われましたか?また、それぞれの俳優にどのような魅力を感じましたか?
ヴァレリオ、ジョルジョ、エマヌエラ、ヴィニーチョは、誰もが共演を望む素晴らしい俳優たちです。ですから、なぜ、彼らを選んだのかというより、むしろ出演を引き受けてくれたことに感謝したいです!また、キャスティング担当のラウラ・ムッチーノとサラ・カサーニのおかげで、若い才能であるロマーナ・マッジョーラ・ヴェルガーノ(マルチェッラ役)とフランチェスコ・チェントラメ(ジュリオ役)に出会うことができました。彼らのオーディションを見て、その卓越した演技力と非凡な感受性に感動しました。
Q:制作中に特に印象深かった瞬間はありましたか?
感動的な瞬間はたくさんありました。この映画のセットは和やかで温かい雰囲気に包まれていて、スタッフやキャストと深くつながり合いながら制作を進めることができました。撮影現場では、照明チームやカメラマン、美術、衣装、ヘアメイクのスタッフが、細部にまで心を配りながら協力してくれました。最も感動したのは、映画の最後のシーンの撮影中、私が即興で提案した演出に応じて、約300人のエキストラがそれぞれ感情を込めて動いてくれたことです。その瞬間は胸がいっぱいになりました。ただ「素晴らしい!もう一回やりましょう!」と声をかけることで泣くのはこらえましたけどね(笑)。
完全無欠なフェミニスト映画ですが、朝ドラ「虎に翼」のような鼻を突くリベラル臭さは一切ありません。西日本新聞が投じた地方ヘイト記事「さす九」が大炎上していますが、その九州人が見てもドン引きするレベルの家庭内女性虐待描写。しかもバイオレンスシーンになると一転コメディに替わり、当該女流監督さんの苦心の跡が窺われます。最後の方は逐電?駆け落ち?と思いましたがまさかそういうオチを用意していたとは。起承転結よく出来た作品です。彼女たちのその後の人生にエールを贈ります。
満足度(5点満点)
☆☆☆