2024年12月02日
【映画評】雨の中の慾情
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アジア映画で史上初めて米アカデミー賞作品賞を受賞した『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ監督の助監督として研鑽を積み、長編映画デビュー作『岬の兄妹』(18)で日本映画界に衝撃を与えた片山慎三監督。予測不能の展開が話題を呼んだ『さがす』(22)や、国内はおろかアジア圏で高く評価された「ガンニバル」(23)など、センセーショナルな作品を次々と世に送り出してきた奇才の次なるプロジェクトが、遂に始動する――。
彼がこのたび挑むのは、今年デビュー70周年を迎える「ねじ式」「無能の人」等で知られる伝説の漫画家・つげ義春による短編「雨の中の慾情」の映画化。「雨の中の慾情」は絵コンテのまま発表されたつげ義春ならではのシュルレアリスム作品で、2024年に欧州最大規模の漫画祭であるフランス・アングレーム国際漫画祭で歴史に残すべき作品に授与されるPRIX DU PATRIMOINE(遺産賞)にノミネートされた。この異端作をベースに片山慎三監督が独創性溢れる数奇なラブストーリーを生み出した。その担い手となる二人の男と一人の女を託されたのは、成田凌×中村映里子×森田剛の実力派俳優陣――各々が体当たりの芝居で魅せる、切なくも激しい情愛と性愛はむせかえるほど濃密だ。
また、本作は2023年3月に劇中のほとんどのシーンを台湾にて撮影。昭和初期の日本を感じさせるレトロな町並みが多い台湾中部の嘉義市にてオールロケを敢行した情緒溢れる映像世界も本作の大きな魅力の一つとなっている。
撮影監督:池田直矢(「ガンニバル」『さがす』『エゴイスト』『死刑にいたる病』)、人物造形&衣裳デザイン:柘植伊佐夫(『岸辺露伴は動かない』『翔んで埼玉』シリーズ)、音響:井上奈津子(『ゴジラ−1.0』)、美術・質感師(エイジング):陳新發(『ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日』)といった日台の一流スタッフが協働し創出した世界観は、真に迫りつつもこの世のものとは思えぬ異様な雰囲気が漂う。奇妙だが生々しく、目を離せない無二のエネルギーに囚われ、画面に溺れてしまうことだろう。
片山慎三監督と「ガン二バル」でもタッグを組んだ大江崇允(『ドライブ・マイ・カー』)が脚本協力で参加し創り上げた本作は、つげ義春の原作を起点に、さらに映画的に縦横無尽に躍動する物語世界を打ち出した。ラブストーリーを軸に、スリラー、ホラー、コメディ、アクション、ヒューマンドラマと、一本の映画でありながらジャンルを超越し、全く先の読めない規格外のストーリーテリングで、過酷な現実に背を向けるほどに性愛に翻弄されてしまう皮肉と悲哀を強烈に描き切る。衝撃的なオープニングシークエンスから一見不可解な描写の全てが伏線となり、作品の全貌を知った時には、出所がわからない、なのに狂おしいほど切実な感情に支配されている……。観客の脳/目/耳/心をかつてない映画体験へと叩き込む一作が、誕生した。
冒頭からの掴みはいいし(泥が付いたちんこ挿入したら女性器はどうなるのだろうとは思った)、定期的に挿入されるセックスシーンもいい。とはいえ画面を汚すマスク処理は萎える(R15)。熱演の中村映里子さん(愛の渦保母さん役だったんだ)乳首が気になる。身体動かしていたら擦れて痛そう。
悪夢のレイヤー手触り感は「【映画評】ボーはおそれている」と同質。マトリョーシカみたいな入り子展開面白い。キャストの使い方はつい先日公開された「【映画評】憐れみの3章」と歩調を合わせた様。意図したモノなのか当方の思い込みか分かりませんが、「ワンスアポンアタイムインアメリカ」や「フルメタル・ジャケット」オマージュっぽいカットもあり楽しい。
この手の映画は欧米のミニシアター系作品なら定期的に出現していますが、邦画というのが嬉しい。クオリティも高いし、さほど期待していなかった分、丸儲け感強し。とはいえ公開初日20時の回で客席4人だったのが悲しかった。A24的なモノが大好きな変態映画マニアならオススメ。
満足度(5点満点)
☆☆☆☆