2018年12月10日
【映画評】テルマ
mixiチェックイントロダクション
鬼才ヨアキム・トリアー監督が放つ北欧ホラー
長編映画の監督デビューからわずか4作で、カンヌやトロントを始めとする世界の権威ある国際映画祭の常連となると共に数々の賞に輝き、今や北欧を代表する監督となったヨアキム・トリアー。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』でカンヌ国際映画祭のパルム・ドールを受賞し、近年では挑発的な衝撃作を世界に突き付け続けるラース・フォン・トリアーを親類に持つ。これまでは、人間の抱える様々な問題に真摯に向き合ったヒューマンドラマを描いてきたヨアキム・トリアーが、最新作では遂にラース・フォン・トリアーから受け継いだ危険な遺伝子を爆発させた。アカデミー賞とゴールデン・グローブ賞外国語映画賞のノルウェー代表作品に選ばれ、世界最大級の映画レビューサイトRotten Tomatoesで93%の満足度(2018.7.23現在)をたたき出した、美しくも恐ろしいイノセントホラーを完成させたのだ。
北欧の神秘的な自然と洗練された街を舞台に放つ目を醒ました少女の“願い”が引き寄せる戦慄の結末
テルマを演じるのは、ノルウェーで子役から活躍していたエイリ・ハーボー。敬虔な信仰心と初めて覚えた欲望に引き裂かれながら、自分の中に眠っていた“恐ろしい力”と向き合うテルマを繊細かつ鮮烈に演じ、本作でノルウェーのアカデミー賞にあたるアマンダ賞にノミネートされる。各国の映画祭でも絶賛され、2018年にはベルリン国際映画祭シューティング・スター賞を受賞、ヨーロッパで最も期待されている若手女優の一人となる。
テルマと強く惹かれ合うアンニャには、本作で映画デビューを果たした、カヤ・ウィルキンス。オケイ・カヤの名前で、ロンドンやニューヨークを中心に活躍している、ビッグブレイクを予感させるモデルかつミュージシャンだ。何気ない衣装もファッショナブルに着こなす見事なスタイルとセンスで、テルマが憧れる存在にリアルな説得力を与えた。
テルマの支配的な父親には、北欧で最もリスペクトされている俳優の一人であるヘンリク・ラファエルソン。彼と『ブラインド 視線のエロス』で共演したエレン・ドリト・ピーターセンが、夫と共にテルマの秘密を守り続ける母親を演じる。
胸躍る青春の扉を開け、大人への階段を上り始めた少女テルマ。だが、その先には想像もしなかった“見知らぬ自分”が待ち受けていた。あなたは、「頭から離れない」と観る者を眠れぬ夜へと追い込んだ、衝撃と戦慄の結末に耐えられるか──?
ストーリー
ノルウェーの雪深い森に、まだ幼い娘のテルマを連れて狩りにやって来たトロン(ヘンリク・ラファエルソン)。やがて目の前に一頭の鹿が現れる。だが、彼のライフルは、獲物ではなく娘に向けられる──。それから数年後、美しく成長したテルマ(エイリ・ハーボー)は、オスロの大学に通うため一人暮らしを始める。人里離れた小さな田舎町で、信仰心が深く厳格な両親のもと育ったテルマにとっては、すべてが新鮮だった。両親から毎日のようにかかってくる電話が面倒なこともあったが、車いす生活の母ウンニ(エレン・ドリト・ピーターセン)を気にかけていた。そんなある日、異変が起きる。真っ黒な鳥の群れが狂ったような勢いで飛び立つと、激しい発作に襲われたのだ。救急車で病院に運ばれたものの原因は分からず心に大きな不安を抱えるが、その時助けてくれた同級生のアンニャ(カヤ・ウィルキンス)と親しくなっていく。テルマは自由奔放で大人びたアンニャに憧れ、彼女のアパートを訪れると、背伸びをして初めてのお酒を飲み、煙草を吸う。一方のアンニャも、純真無垢だがどこか他人とは違う魅力を秘めたテルマに強く惹かれていく。ある時、想いの募った二人は口づけを交わすのだが、厳しい戒律のもとで育てられたテルマは激しい罪悪感に苦悩する。それからも発作と共に、不気味な自然現象が周りで起きるようになり原因を探るため検査入院したテルマだったが、彼女の故郷の病院からカルテを取り寄せた医師から、幼い頃に精神衰弱で発作を起こしたことについて質問される。だが、テルマはそんな重要なことを、何ひとつ覚えていなかった。“心因性”という診断を下した医師は、精神を病んでいたテルマの祖母からの遺伝の可能性も疑っていた。さらに、テルマが両親から「死んだ」と聞かされていた祖母が、老人ホームで生きていることが判明する。テルマが消えた記憶と家族の秘密に混乱していた頃、アンニャが突然、姿を消してしまう。自分の発作との関係を疑ったテルマは、自らの生い立ちを探るべく帰郷し、両親が隠し続けてきた衝撃の事実に直面することとなるのだが…。なぜ、父親は幼いテルマを殺そうとしたのか?テルマの発作とアンニャ失踪の関係は?果たして、テルマが秘めた“恐ろしい力”とは──。
プロダクションノート
ヨアキム・トリアー監督 インタビュー
本作の独創的なアイディアはどのように生まれたのでしょう?
二つのものを融合することに興味があったんだ。一つは「テルマ」というキャラクターの物語。実存主義的な問題を抱えた若い女性が自分が何者なのか、ということを受け入れる。真の恐怖だ。もう一つは、異なるイメージを組み合わせ創造してみたかった。子供の頃にたくさん観たスーパーナチュラル・ムービー。同じようにたくさん観たイングマール・ベルイマンの映画。彼の映画の根底にあるのは人間の物語だよね。他にもブライアン・デ・パルマ監督作品とか、大友克洋監督の『AKIRA』。こういった作品はSFやスーパーナチュラルのストーリーを通して実存主義や人生における大きな疑問を描いている。日本映画ではよく人間の感情が描かれていると思うんだけど、昨今のアメリカのメインストリームな映画はアクションだけで人間の心が描かれていない。だから、この二つを組み合わせてみたかったんだよ。
この映画が素晴らしい理由の一つは、色んなユニークな要素がバランスよく融合されていてカテゴライズ不可能な点です。
ああ、そうだね。一つのジャンルになんてカテゴライズしてほしくないね!
では、監督はこの映画をなんと形容、表現しますか?
若い女性が、一人の人間になるまでの過程を描いたヒューマン・ストーリー。自分らしい自分でいることの恐怖。でも映画の枠組みとしてはファンタスティック映画だから、ロマンティック・スーパーナチュラル・スリラーと呼ぶね。それがなにかはわからないけど(笑)。僕は、コラボレーター(共同脚本のエスキル・フォクト)と僕が生み出したストーリーを語っているだけだから。映画を客観的に外側から見ることはできないんだ。
さきほど『キャリー』や『フューリー』のデ・パルマ監督の名前が出ましたが、他にもホラー映画やジャンル映画から影響を受けていると思いますか?
デ・パルマからは多くのインスピレーションをもらったね。あとは僕が生まれ育ったノルウェーの昔の寓話(フェアリーテイル)。森に秘められた神秘とか、自然、動物。そういったものも『テルマ』の一部になっている。だからこの映画はアメリカのポップアート、デ・パルマとかトニー・スコット監督の『ハンガー』、デヴィッド・クローネンバーグの『デッドゾーン』を組み合わせているんだよ。あとはノルウェーの魔女についての伝承とかも。魔女は必ずしも邪悪である必要はない。善き魔女もいるからね。抑圧された女性の物語は描きたくなかったんだ。それよりももっとパワーに満ちたストーリーを描きたかった。この映画は色んなものからインスピレーションを得たよ。
テルマの能力についてはどうやってリサーチしたのですか?
オカルトに関連する本をたくさん読んだよ。アレイスター・クロウリーの著書とかね。クロウリーは「Thelema」という本を書いている。『テルマ』とほとんど同じ意味だ(筆者注:クロウリーは同名の宗教も創設した)。「真の意志」という意味の古代ギリシャ語なんだ。あとは家族と子供の関係や、僕たち人間がどうやって振る舞うべきか。痙攣なんて普通起こるものではないから問題だ、と勝手に決めつける社会、そこから生まれる状況や感情、結果について語ることに興味があった。あとは「自分の内側から生まれた本物のパッションが一体どうなるのか?」というテーマのホラー映画を作りたかったんだ。
監督はこのような特殊能力を信じますか??
信じてないかな。僕は想像力というパワーを信じている。想像力のおかげで世界はより興味深い世界になる。世界のミステリーは信じているよ。『テルマ』がフィクションであることは、僕にとって問題ではないから。現実のことではない。それが面白い。だから僕は映画館に足を運ぶんだ。僕の人生とはまったく異なる物語が僕に影響を与えてくれるから。僕は言葉で描写できるものよりも、人間同士のコミュニケーションのほうを信じているんだ。もちろん、この世にある言葉では説明できないけど、感じることができるものを僕は信じている。それは真実だ。そういう観点から言うと、オカルトやスーパーナチュラルなものを信じているよ。
『テルマ』製作中の一番のチャレンジはなんでしたか?
多くのチャレンジがあった。視覚的な言語を創り出すために200以上のCGのデジタルショットを使ったよ。観た人が自然でリアルに感じてもらえるように。近年のスーパーヒーロー・ムービーは型にはまっていて、まるでアニメを見ているみたいだ。僕はリアルに見せたかった。ガラス、水、氷、風、動物。すべてがリアルに見える。いくつかは実写とCGの融合だけどね。かなり長い過程だったけど、楽しかったよ。
例えば、鳥ですね。
ああ、その通り。この映画に出てくる動物は本物もいればデジタルで操作されているものもある。あの鳥の群れは『鳥』へのオマージュでもある。僕はヒッチコックの大ファンなんだ。
劇中のフラッシュライト効果もセンセーショナルで最高でした!『アルタード・ステーツ/未知への挑戦』や『ブレインストーム』を思い出しました。
うん、『アルタード・ステーツ』最高だよね! 映画を観に行って暗闇の中で肉体的なチャレンジをするのが好きなんだ。エキサイティングだよね。最初はジョークから始まったアイディアなんだよ。「フラッシュライトにご注意ください」って冒頭に出そうか、って話になって。映画が完成してプロデューサーに「この警告は必要だね。エクストリームでセンセーショナルな体験だから」って言われたんだ。日本のアニメではこういう効果がたくさん使用されているから、日本の観客のみんなが受け入れてくれることを願っているよ!
新人俳優2人のキャスティングに関して伺いたいのですが。
テルマとアンニャの役のために今回1000人以上もの俳優をリサーチしたよ。エイリに出会ったとき、彼女が普通の才能の持ち主ではないことにすぐに気づいたんだ。成熟さと純粋さの両方を兼ね備えていて、エイリならテルマが大人になっていく過程を表現できると確信したよ。ただ不安に思っていたのは、この役柄に求める体力的な演技へのプレッシャー部分だ。チャレンジングなパートが多かったからね。でも彼女はスタントに頼ることなく、大部分を自分自身で演じたいと言ってくれて見事にやってのけたんだ。僕は今まで一つの役にここまで身体的にも精神的にも徹底的に挑戦してくれる俳優には出会ったことがないよ。一方、アンニャ役を演じたカヤ・ウィルキンスの本業はミュージシャン(オケイ・カヤの名で活動)で、今回映画に出演して欲しいと説得したんだ。演技経験がないと思えない程、俳優としての才能も持ち合わせていたよ。全てのことを簡単にこなしてしまうタイプで、いわば天才肌だね(笑)。
エンディングは観る人によって様々な解釈ができます。
そうだね。本国のノルウェーでも、「なんて美しいハッピーエンドなの」という人もいれば、「なんてダークなエンディングなんだ」という人もいて、反応が様々なんだ。この事実を気に入っているよ。だから自分の考えは言いたくないかな。観た人に自分で感じてほしいからね。願わくば、その解釈が観客それぞれを反映する鏡になればと思う。
では、この映画の核、本質とはなんでしょう?
ダークな映画的空間における実際的な体験。自分が観たものがなんだったのかを説明せずに、すべての映像やサウンドから得た自分の感情をさらけ出すことができる作品。僕は監督であり観客の知らない秘密を知っている。言葉で説明できること以上の秘密をね。(映画が)好き、好きじゃないという意見には興味がない。映画を感じること、映画を体験することに興味がある。僕にとってそれが素晴らしいことだ。それが僕の夢だね。
息を呑むような素晴らしい映像の数々も印象的でした。
撮影監督はスウェーデン人のヤコブ・イーレ。彼は僕の全作品の撮影監督なんだ。彼は素晴らしいよ。今回は、今までと違うレンズを使ってみたんだ。初めてシネマスコープレンズを使ったんだよ。この映画では閉所恐怖症的でありつつ、同時に壮大な映像を撮りたかった。漫画ではよく使われる手法だよね。例えば、大友克洋の漫画「童夢」。子供や人間など小さなキャラクターと巨大なビルがシンメトリックに描かれている。あの手法にはインスパイアされたね。大友克洋も今敏もこういう技法に長けている。君が日本人だから言ってるわけじゃないよ。本当にそうなんだから!
Text by 小林真里
上述プロダクションノートで監督さんがしきりに日本アニメを喩えに持ち出されていますが、大半の映画ファンなら今年上映された「【映画評】RAW〜少女のめざめ〜」とオーバーラップしているんじゃないかな。アニメと対比するなら「いっちょん分からん」でお馴染み今クールオンエア中の「青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない」が適切且つ方向性として重なる部分も多い印象。
内容ですが、この先どうなるんだろう?という冒頭の鹿狩りシーンは結構凄かった。湖面氷下のシーンも衝撃的。みたいにピース、ピースはいいのだけれど、全体繋げるとどうなのか。もうちょっとカチッと嵌め込んだらよかったんじゃないかな。話の流れも伝えたい事も分かるけどなんか悪い意味でぼんやりした感じ。とはいえ話題騒然のA24印のホラー作品「【映画評】へレディタリー/継承」より個人的には本作の方が好み。ビジュアル的なセンスはよさそうなので甥っ子さんの次回作に期待します。そういやブランドン・クローネンバーグくんはどうしているだろう?サラ・ガドンのアンチヴァイラル結構よかったんだけど。
他方、当地で上映されなかったホラー版「リズと青い鳥」と評される「ブルーマインド」、WOWOW放送期待しています。各有料オンデマンドで観られるけど流石にお金を払う気にはなりませんで。
満足度(5点満点)
☆☆☆