【映画評】リズと青い鳥

　
映画『リズと青い鳥』ED主題歌「Songbirds」


「【映画評】聲の形」スタッフが再集結。山田尚子監督最新作。
監督舞台挨拶付き先行上映会に行ってきました。従来の山田尚子ムービーと違いもやもやする。

以下、独特の表現しましたので注釈しますと「原作」「武田ユーフォ」＝武田綾乃原作本、「石原ユーフォ」＝テレビアニメ版を指します。ネタバレなしでファーストインプレッションによる感想です。とはいえ色々触れているので映画観に行く予定の人は読まない方がいいよ。君子危うきに近寄らず。

イントロダクション
少女の儚く、そして強く輝く、美しい一瞬を――。
高校生の青春を描いた武田綾乃の小説『響け！ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』がアニメーション映画化。みぞれと希美、2人の少女の儚く美しい一瞬を切り取ります。制作は、映画『聲の形』で第40回日本アカデミー賞優秀アニメーション賞、東京アニメアワードフェスティバル2017アニメオブザイヤー作品賞劇場映画部門グランプリなどを受賞した京都アニメーション。そして、監督・山田尚子、脚本・吉田玲子、キャラクターデザイン・西屋太志、音楽・牛尾憲輔ら、映画『聲の形』のメインスタッフが集結。

繊細な人の心を映し出してきた制作陣による、――誰しも感じたことがある羨望と絶望。そしてそれらを包み込む、愛。

　この春、あなたの心に「響く」一作をお届けします。

ストーリー
希美と過ごす毎日が幸せなみぞれと、一度退部をしたが再び戻ってきた希美。
中学時代、ひとりぼっちだったみぞれに希美が声を掛けたときから、みぞれにとって希美は世界そのものだった。
みぞれは、いつかまた希美が自分の前から消えてしまうのではないか、という不安を拭えずにいた。

そして、二人で出る最後のコンクール。
自由曲は「リズと青い鳥」。
童話をもとに作られたこの曲にはオーボエとフルートが掛け合うソロがあった。

「物語はハッピーエンドがいいよ」
屈託なくそう話す希美と、いつか別れがくることを恐れ続けるみぞれ。

――ずっとずっと、そばにいて――

童話の物語に自分たちを重ねながら、日々を過ごしていく二人。
みぞれがリズで、希美が青い鳥。
でも……。
どこか噛み合わない歯車は、噛み合う一瞬を求め、まわり続ける。

山田尚子監督インタビュー

脚本の吉田玲子さんとはどのような打ち合わせをされましたか？

吉田さんが描かれる少女の世界というものにとても興味がありました。原作の流れも出来上がっているので、あまり窮屈に打ち合わせるような感じではなかったと思います。
希美が信条としている「物語はハッピーエンドがいいよ」がとても良いと思ったので、ハッピーエンドに照準を合わせていくような話合いをした感じでしょうか。

お二人で意見が異なる部分などがございましたか？

たぶん大きくは無かったと思います。当り前のことではあるのですが、私と吉田さんの見方って必ずしもおなじではなくて、でも、そのおかげで、作品世界への理解が一方的にならず、冷静に取り組むことができます。吉田さんとはもう10年もご一緒しているのですが、この距離感がずっと心地よく保たれているので、いつも新鮮なかんじがしています。

作品を制作していくうえで、どういった部分に特に気を配られたのでしょうか。

この作品は繊細な心情、心の積み重ねが重要なので、「悲しいから悲しい表情をする」と言う風に記号的な芝居付けをしないよう気を付けました。
たとえばフルートの希美は、口のはじを上げて目をほそめることで相手には笑っていると認識される。というようなことを考えている子なのですが、裏を返せば「わらう」ことをして、相手と自分の間にある距離を取り繕っているわけで。そのようなことを思いながら一歩一歩日々を積み上げている彼女たちの尊厳を守れるよう、表現の近道を選ばないことが大切な事でした。

そういった難しい芝居に、スタッフの戸惑いはありましたか？

私が想像していたような戸惑いはありませんでした。繊細で丁寧に積み上げる作業を得意とするスタッフが揃っているので、この作品が進もうとしている方向については有意義な打ち合わせができたと思います。例えば会話の芝居だと、ひとつひとつのやりとりがその人たちの「初めて」であることが大切だな、とか。人が話して、それを聞いて、咀嚼して、理解して、答えを返す。みたいな、普通の会話を目指しました。

原作のギスギス感、サイコ感を山田尚子が優しいオブラートで包み、前後左右を石原ユーフォ留め金で「カチッ」とジョイントした感じ。揺れるポニーテール、希美のステップターン、フルート管「disjoint」シーン、ダブルリード「disjoint」シーンが印象的。体育授業のシーンも新鮮。本編は部活と教室と登下校しかシーンがなかったからね。

＞ハッピーエンドに照準を合わせていくような
ハネケじゃあるまいし「ハッピーエンディング」じゃねーだろ？
当ブログが原作を誤謬している可能性を否定しませんが「大好きなハグ」互いの回答は永遠に交わる事が出来ないディスコミュニケーション（本作ではdisjoint）暗喩かと思っていました。文字が消える演出や監督のハッピーエンド発言。解釈が真逆だったので戸惑いました。そこは劇場公開時に再度確認してみます。

先に良かった点。主演2人の世界観を壊さない絶妙な距離感のダブルリード並びにフルートパートのモブ加減はよかったです。久美子も麗奈もキャラデは石原ユーフォよりこっちのほうが断然いい（新山先生を除く）。とはいえ絵本パートの頭身は違和感。セリフを限界まで抑制した山田尚子の演出手法とそれを見事に演じ切った種崎敦美は改めて凄い。牛尾憲輔の劇伴も「聲の形」を上手に横展開している印象で凄くよかったです。全般的に非常に静かな作品。固唾を飲み主演二人の一挙手一投足を全観客が凝視。並びの列のオタ女が袋菓子ボリボリ喰う音だけが静かな場内に響き渡る。「聲の形」と違いHomecomingsのエンディングテーマもいい。最初の全く噛み合わないオーボエとフルートのセッションを音で再現した演奏もよかった。「シェルブールの雨傘」は何の暗喩？

とはいえ、物語の畳み方には正直物足りなさを感じました。穿った見方をするならば「この続きは今秋の石原ユーフォを観てね！」みたいな。

インタビューを拝見するとそういう演出意図である事を理解出来ますが、やっぱり収束としてのカタルシスが皆無は不味いでしょ？石原ユーフォはこの先もかなり続く筈だけど、山田ユーフォってこれで終わりの一期一会。だったら劇場版前作（【映画評】劇場版 響け！ユーフォニアム〜届けたいメロディ〜）がテレビアニメ本編のお約束事をぶっ壊したみたいに、石原ユーフォのキャラデを叩き壊した山田ユーフォはこれだ！どや！と明快な結論を提示すべきだったのでは？（そういう意味じゃ最新刊の最終編は珠玉）石原ユーフォや武田ユーフォと辻褄が合わくても全然構わないし、軒先貸して母屋を取ってもいいんですよ。山田尚子なんだから。石原監督の手のひらの上で孫悟空している訳ではないのでしょうけど、リズと青い鳥って石原立也と山田尚子とのダブルミーニングではとか少し思った。あと本田望結の絵本パートは丸々いらない気がします。覚醒シーンのオーボエは凄まじい迫力だったけど、流石に原作を凌駕出来なかったと思われ。あれは原作の無茶振り。

いずれにせよ一連の山田尚子ムービーと違い、主人公心情の傍観に終始する本作はミニシアター系。ユーフォファンは別として、コアなユーロ映画ファンには間違いなく刺さると思いますが、先に書いたようにカタルシス効果や派手なメリハリがないので一般の人には勧めにくいなぁ。

そうですね。「ヴァージン・スーサイズ」「裸足の季節」「17歳のカルテ」「アデルブルー」等、思春期のもやもや感フィルムが好きな人はアニメ毛嫌いせず劇場行っといで。きっと満足するよ。逆にリズと青い鳥観て感動した人は上述映画もオススメ。

満足度（5点満点）
☆☆☆☆

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