2015年06月26日
【映画評】トイレのピエタ

イントロダクション
漫画の神様・手塚治虫が死の縁まで綴っていた日記。本作の脚本・監督を務める松永大司が、その最後のページに残されていた「トイレのピエタ」のアイディアに出会ったのは、今から遡ること10年ほど前だ。ピエタとは聖母子像。磔にされて命を落としたキリストを両手に抱いたマリアの像で、ミケランジェロをはじめ様々な芸術家が作品にしてきた、キリスト教における重要なイコンの一つである。排泄のための場所に描かれるピエタ。それは人が生まれて死んでいく、この世界そのものを表現しているのではないかと直感した松永は、アイディアをプロットにしたため、これを監督デビュー作にしようと心に決めた。
松永は、ドキュメンタリー映画「ピュ〜ぴる」(ロッテルダム国際映画祭2011招待作品)の公開後、自ら脚本を執筆。 「ノルウェーの森」の小川真司、「へルタースケルター」の甘木モリオ、両プロデューサーとともに実現に向け本格的に始動した。彼らが主演・園田宏役としてオファーしたのは、俳優ではなく、人気ロックバンド「RADWIMPS」の野田洋次郎。ヴォーカル&ギター、そして全作品の作詞作曲を手がける彼は、同時代の恋愛観や死生観を歌い続け、多くの若者たちから熱烈な支持を受ける存在。セールス的にもビッグヒットを連発する日本音楽界最重要人物の一人である。
デビュー以来、音楽活動に専念してきた野田なので、出演交渉は難航を極めるかと思われたが、脚本を一読した野田は出演を決断。後に彼はその理由を、宏があまりにも他人とは思えなかったからだと語った。ヒロイン宮田真衣役には1年に渡るオーディションの末に杉咲花を抜擢。若手演技派としてCMやドラマで注目を集める17歳は、初となる大役に体当たりで挑むこととなった。他の共演者として、リリー・フランキー、市川沙椰、宮沢りえ、大竹しのぶなどの個性派・実力派が、物語に吸い寄せられるように集まり、スクリーンに彩りと厚みを加えた。
ストーリーは園田宏が窓拭きのバイトをしているシーンから始まる。都会のビルに虫のようにしがみついて窓を拭く宏。美大を卒業し、画家を目指したものの、夢が叶うことのないまま無為な日々を過ごしていた。ある日、いつものように窓を拭いていた宏は、突然意識を失い、病院へ運ばれてしまう。精密検査の結果、病名は胃がん。余命は3カ月だと告げられる。その時宏の傍らには、出会ったばかりの女子高生・真衣がいた。宏に妹役を頼まれて、ともに診断結果を聞くことになった真衣。彼女は宏に「一緒に死のう」と提案するが、我を失うほど動揺する宏でも、それに従うことはできない。「意気地なし!」。二度と会うことなどないと思われた二人だが、運命は彼らの間に確かなつながりを用意していた。
宏にとって人生最期となる夏。目の前には、まだ上手に生きることを知らず、感情をむき出しにする真衣。二人は互いの素性も知らないまま、反発しながらも惹かれ合っていく。ありのままの魂で求め合うその関係は、恋や愛、どんな言葉も及ばないほどピュアなものだ。もうすぐ立ち去ることになるこの世界に、真衣という目映い光を見てしまった宏。彼はどのような「トイレのピエタ」を遺すのか?
映画初出演とは思えないほど宏として自然にそこに在り、死を目前とした男の絶望と執着を見事に表現した野田洋次郎。宏に力の限りぶつかり、心のすべてで惹かれていく真衣という難役を演じ切った杉咲花。そして本作のために出会い、別れることとなった二人の人間の生の感情を、誠実に厳密にカメラに収めた監督・松永大司。彼らをはじめ全キャスト、全スタッフの思いが、いくつも小さな奇跡を串刺しにして、ピエタの歴史に名を刻む、高貴な美しさを湛えた作品を誕生させた。もっとも純粋で痛切なラブストーリー。その言葉はこの映画のためにある。
ストーリー
画家への夢を諦め、窓拭きのバイトでやり過ごすように日々を送る園田宏(野田洋次郎)。美大時代の恋人さつき(市川沙椰)と再会し、彼女の個展に誘われるが、もはや絵など見る気にもなれない。ビルの壁に貼り付いて窓を拭く自分を虫のようだと思っていたある日、宏は突然倒れ、病院へ運ばれる。人体実験のような精密検査。結果は家族と一緒に聞かなければならないそうだ。郷里の両親に連絡するのは煩わしい。さつきに頼み込んで病院に来てもらうが、絵を巡って口論となり、彼女は早々に帰ってしまう。その時、若い女の声がロビーに轟いた。「制服破れたんですけど、弁償してもらえますか!?」女子高生の真衣(杉咲花)がサラリーマンを相手に因縁を付けている。宏は真衣に声をかけ、制服代を払う代わりに妹役をやってほしいと持ちかける。風変わりな依頼に首を傾げながらも、宏に付いてくる真衣。
「胃に悪性の腫瘍ができてます。このまま何もしないと3カ月くらいの命ですよ」突然の余命宣告。呆然とする宏に、傍らの真衣は明るく声をかける。「今から一緒に死んじゃおうか?」バイクの後ろに真衣を乗せ、スピードを上げる。だがそのまま死んでしまうことなどできなかった。入院して抗がん剤治療を始めた宏は副作用に苦しめられる。郷里から駆けつけた父(岩松了)と母(大竹しのぶ)には、本当の病名は伝えられない。
突然もうすぐ死ぬと告げられてもなんの実感も得られず、漠然とした恐怖に支配される宏。それでも過ぎていく入院生活の中で、同室の患者・横田(リリー・フランキー)や小児病棟の拓人(澤田陸)と拓人の母(宮沢りえ)らと出会い、これまで知らなかった世界を垣間見ることになる。
拓人が大切にしていた塗り絵を捨ててしまった宏は、お詫びに自作の塗り絵をプレゼントすることを思いつく。久しぶりに絵を描こうとしたものの、資料となる本を買ってきてくれる人がいない。その時宏は真衣の存在を思い出す。「何なの?入院してる暇人と違ってこっちは忙しいんだけど!」相変わらずの勢いに押される宏。しかしそれ以来、度々病院にやって来るようになった真衣との間に奇妙な交流が始まった。「あのさ、背の低い子とキスする時はどうするの?」
病人相手でも容赦なく、ありのままの感情をぶつけてくる真衣。彼女は彼女の事情の中で、寂しさや憤りを抱えているようだ。「あんたなんか自分で生きることも死ぬこともできないじゃん!」残された時間を知るまでは、この夏もいつものように、やり過ごすだけの季節になると思っていた。それが人生最期の夏に変わってしまった時、目の前に現れた、あまりに無垢な存在。戸惑い、翻弄されながらも、宏は生と死の間に強烈な光を見る。
全然関係ないのに、観ながらCharaの「PiCNiC」を彷彿しました。脳内で本作主役とChara&浅野さんがリンケージしたのか?
手塚治虫とかどうでもいいのですが、主役の2人が新鮮過ぎて幸せな気分になります。特に杉咲花さん。ドラマ「学校のカイダン」で広瀬すずと丁々発止やっていたので顔は覚えていましたが、無茶苦茶面白い女優さんになりそう。
脇に先日観た「海街diary」入っています。坊ちゃん刈りの大竹しのぶさんは置いといて、リリー・フランキーさんがいい味出していました。あと秋山徳蔵がいました。
でマジな話、余命三ヶ月で杉咲花とああいう関係になったら普通やるでしょ?意図的にセクシャル描写避けてるのか分かりませんが、夜中にプールに忍び込んで「このあと滅茶苦茶セックスした」方が生と死のコントラストが映えてよかったような。
満足度(5点満点)
☆☆☆
「学校のカイダン」キャストでは石橋杏奈さん(遠賀郡出身)を注目していますが、なかなか作品に恵まれていないようですね。広瀬すず恐るべし。
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