2014年12月01日
【映画評】黄金のメロディ マッスル・ショールズ
mixiチェック黄金のメロディ マッスル・ショールズ [Blu-ray]
まさか21世紀の劇場スクリーンでスカイドッグが観られるとは思いませんでした。
トラック三周遅れで当地で上映。陳腐な物言いですがこれは神映画。
んで、ボノっていう知ったか?が何度もしゃしゃり出て不愉快なんですが、なんすかあのiPhone乞食。
2008年
コロラド州ボールダーで不動産業を営むグレッグ・フレディー・キャマリアーは、幼少時代の親友がニュー・メキシコ州に引っ越すことになり、およそ3000キロの車での旅につきあうことになった。少なくとも2−3泊にはなる長旅の途中彼らはアメリカ南部を通り、そこで「マッスル・ショールズ」の看板を見かけた。アマチュア・ミュージシャンで音楽を愛していた彼らはマッスル・ショールズで作られた音楽のいくつかが自分たちのお気に入りだったことを知っており、その街に一泊することにした。
マッスル・ショールズに宿泊しながらコンピューターでいろいろ街のことを調べると、そこで生み出された音楽の歴史の素晴らしさと、その街の音楽界への影響力の巨大さに驚嘆し、グレッグはこれをドキュメンタリー映画にしようと思いつく。
彼はこれまでに2本ほど映画プロデュース(資金提供)をしたことはあったが、自分が企画からすべてを始めるのは初めてのことで、ありとあらゆることが初体験となった。
その車の旅からおよそ3年半の年月を経てこれが一本の映画となった。それが本作『黄金のメロディ〜マッスル・ショールズ』だ。これはグレッグにとって監督としての初作品でもある。
音楽ドキュメンタリー。
ウィルソン・ピケットの「ダンス天国(Land Of 1,000 Dances)」、ステイプル・シンガーズの「アイル・テイク・ユー・ゼア」、パーシー・スレッジの「男が女を愛するとき(When A Man Loves A Woman)」、ローリング・ストーンズの「ブラウン・シュガー」、ポール・サイモンの「コダクローム」、アリーサ・フランクリンの「アイ・ネヴァー・ラヴド・ア・マン」、クラレンス・カーターの「パッチェス」などなど。これらの大ヒット曲をすべて生み出したのがマッスル・ショールズにある録音スタジオだ。
アメリカ深南部アラバマ州にある小さな街、マッスル・ショールズ。コットン・フィールド(綿花畑)と森と川しかない、つまり何もない所に一人のミュージシャンが音楽スタジオを建てた。リック・ホールという男が1950年代後期に作った「フェイム・スタジオ」だ。このFAMEとは、フローレンス・アラバマ・ミュージック・エンタープライズの頭文字を取ったもの。そこはいつしか土地の名前で「マッスル・ショールズ・スタジオ」と呼ばれるようになった。
ここからは1960年代に入って多くのソウル、さらにカントリーのヒットが誕生。それらを受けて世界中からこのサウンドを求めてプロデューサー、ミュージシャンたちがマッスル・ショールズ詣でが始まり、「マッスル・ショールズ・サウンド」は世界的な音になっていった。
本作は2012年暮れまでに製作され、2013年1月26日、サンダンス・フィルム・フェスティヴァルでプレミア公開、さらに、2013年2月のアメリカ・コロラド州ボールダーで行われている「ボールダー・フィルム・フェスティヴァル」で堂々グランプリ(同フェスの最高賞)を獲得、一挙に注目を集めた。その後、2013年9月27日に全米で公開。これまでに69万ドルの興行収入をあげている。
グレッグ・キャマリアー監督は「僕らが目指したことは、スタジオにある物語を語らせるということだった。多くのミュージシャンたちがこれらのスタジオに光を当てて語ってくれた」という。
音楽ドキュメンタリーというカテゴリーでいえば、一番近いのが『永遠のモータウン(Standing In The Shadows Of Motown)』、また、最近だと『シュガーマン 奇跡に愛された男(Searching For Sugar Man)』、アカデミー賞ドキュメンタリー部門を獲得した『バックコーラスの歌姫たち(20 Feet From Stardom)』などが思い浮かぶが、そうした作品と並べてもひじょうに興味深い作品になっている。
アーカイヴ。
基本的には「フェイム・スタジオ」を始めたリック・ホールが大まかな歴史を語り、ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、ボノ(U2)、クラレンス・カーター、パーシー・スレッジ、スティーヴィー・ウィンウッドら20人近くがインタヴューに答える。実に多くのアーカイヴ映像からの資料が使われており、パーシー・スレッジ、ウィルソン・ピケット、ジェリー・ウェクスラーら故人のインタヴューも見られる。
これらのアーカイヴのうちいくつかは、1969年にスゥエーデンの映像作家が撮影していた30分のフィルムから使われている、という。これはひじょうに質のいいモノクロの16ミリのフィルムが残っていた。またローリング・ストーンズの映画『ギミー・シェルター』からも使用している。また、驚くべきことに、フェイム・スタジオには1960年代の8ミリ・フィルムが残されておりそれらも使用した。
南部には有名になったスタジオがいくつかある。テネシー州メンフィスのサン・スタジオ(エルヴィスを輩出)、ロイヤル・スタジオ(アル・グリーンを輩出するハイ・レコードのスタジオ)、ミシシッピー州ジャクソンヴィルにあるマラコ・スタジオ(ジーン・ナイト、ドロシー・ムーアなど輩出)。このアラバマのフェイム・スタジオ、マッスル・ショールズ・スタジオもそうした名門スタジオのひとつに数えられる。
なぜここはこれほど多くのミュージシャンたちに愛されるのか。なぜここからはたくさんのヒットが生まれたのか。彼らが生み出す「ファンキーな」サウンド、「グリージーな」(油っこい)、「マディーな」(泥臭い)サウンドの秘密はどこにあるのか。そうした謎をこの作品は実に美しい映像とこれまでに見たこともないようなアーカイヴ映像とともに浮き彫りにしていく。これは南部音楽への旅でもある。
袂(たもと)。
リック・ホールはプロデューサーとしても力を発揮、多くのヒットを生み出したが、ひじょうに個性的なキャラクターで、ふだん使っていたミュージシャンたちとも徐々に意見の相違が多くなった。そこで、元々フェイム・スタジオで活躍し自ら「スワンパーズ」と称していたロジャー・ホーキンス、デイヴィッド・フードらは、リック・ホールと袂を分かち、1969年、近くに「マッスル・ショールズ・スタジオ」を設立し、ここをベースに活動するようになる。こうしてマッスル・ショールズには、「フェイム・スタジオ」と「マッスル・ショールズ・スタジオ」という二つのスタジオが同じようなサウンドを作るようになった。(ちなみに同地にはクイン・アイヴィーというソウル・プロデューサーが持つクイン・アイヴィー・スタジオもあった)
一方、スタジオにおける主要ミュージシャンを失ったリック・ホールは地元でまた新たな有能なミュージシャンを見つけ、彼らに「フェイム・ギャング」と名づけ、スタジオ仕事をたくさんやらせるようになる。
この作品も、『永遠のモータウン』や『バックコーラスの歌姫たち』など同様、ふだんはほとんど脚光を浴びない裏方の、しかし、その音楽のエッセンス(本質)を作り出す人々に光を当てているドキュメンタリーである。
音楽ファン、ソウル・ミュージック・ファンとしては見所が満載だ。ニューヨークのインテリ音楽ビジネスマン、ジェリー・ウェクスラーと南部のダウン・トゥ・アースな気取りのない田舎人のリック・ホールや他のミュージシャンたちとの確執。これだけソウルフルな音を作りながら、それを演奏していたのは実は白人なのだが、1960年代における周囲の白人対黒人という人種差別の図式とは別に存在する音楽を媒介としたミュージシャンシップも興味深い。
このドキュメンタリー映画の製作過程で、一度は袂を分けたリック・ホールとミュージシャンたち、スワンパーズとの劇的なリユニオンも描かれる。本編では描かれないが、DVDのエキストラ・トラックで4人がリヴィング・ルームのようなところでゆったりと昔の思い出話に浸っているところなどは胸を打つ。
本作は、もうひとつのサイド・ストーリーとして、これまでに語られたことがないリック・ホール自身の人生が語られる。彼の妻、彼の父についての語りは、リック・ホールのソウル・サーチンの物語としても見ることができる。確執・別離・再会が実にうまく描かれているのだ。
数々のソウル・ヒットの誕生とその秘話は音楽ファンの魂を揺さぶるにちがいない。
ストーリー
アメリカン・ネイティヴが<歌う川>と呼んだアラバマ州テネシー川のほとりにあるマッスル・ショールズ。人口8000人の小さな町、森の中にある小さな町のフェイム・スタジオ、マッスル・ショールズ・スタジオの2つのスタジオから生み出された音楽は、歴史に残る重要な名曲を輩出してきた。マッスル・ショールズは、政治や地理的な影響を受けずに創造性豊かな音楽活動ができる場所であり、白人・黒人という肌の色に関係なくミュージシャンが才能を発揮できた場所でもあった。
マッスル・ショールズ出身のリック・ホールは地元の金属加工工場に勤める青年だった。貧しい家庭に生まれた彼は、友人と2人で田舎の薬局の2階に小さな音楽スタジオを作る。そこでの活動はすぐに終わりを迎えるが、やがて1959年にマッスル・ショールズでフェイム・スタジオを設立する。地元の白人のミュージシャンを集めて作ったリズムセクションを背景に同じく地元の黒人歌手アーサー・アレクサンダーを起用して録音した「ユー・ベター・ムーヴ・オン」がヒット。これによりフェイムスタジオの名声はアメリカだけでなくイギリスにも轟くことになる。のちに“スワンパーズ”とよばれるこのリズムセクションがつむぐメロディを武器に、リック・ホールとフェイムスタジオは1960年代のソウルミュージックシーンを席巻していく。全米で公民権運動が起こりながらも南部には人種差別がまだまだ根強く残るその時代に、政治や肌の色に関係なく数々のソウルの名曲を生み出していく。
パーシー・スレッジの名曲「男が女を愛する時」、名プロデューサーのジェリー・ウェクスラーと組んでからは、ウィルソン・ピケット「ダンス天国」「ムスタング・サリー」、アレサ・フランクリン「貴方だけを愛して」、チェス・レコードからはエッタ・ジェイムズの「テル・ママ」など次々とヒット曲を飛ばしていく。
のちには名ギタリストのデュアン・オールマンもフェイムの一員となり、彼のアイデアとギターでウィルソンに全く新しい「ヘイ・ジュード」が生まれた。
スワンパーズは、その後フェイム・スタジオを離れ、ジェリー・ウェクスラーと直接契約。リック・ホールのたもとをわかつことになり、自らのスタジオであるマッスル・ショールズ・スタジオを設立。しばらくはヒット曲に恵まれなかったがそんな時、イギリスからザ・ローリング・ストーンズがやってくる。「ユー・ガッタ・ムーヴ」「ワイルド・ホース」「ブラウン・シュガー」など数日のうちに次々と歌ができていく。多忙ゆえに自家用ヘリで移動しなければならないほど、曲作りにのめり込んでいた。その後もジミー・クリフ、スティーヴ・ウィンウッド、ボブvデュラン、ポール・サイモン、サイモン&ガーファンクルなど70年代のヒットチャートを常に沸かせた。
謙虚で情熱的なバンドの姿勢を保ちながら、完璧主義を貫き、成功を追い続けたザ・スワンパーズ。数々のヒット曲の誕生に携わり、アメリカを代表する名曲となった『スウィート・ホーム・アラバマ』でも<マッスル・ショールズにはザvスワンパーズがいる>と歌われている。
フェイム・スタジオでアリシア・キーズが年老いたスワンパーズのメンバーとともにボブ・デュラン名曲「Pressing on」を歌い上げる。そしてそこにはじっと見つめるリック・ホールの姿もあった。
要はアレサやオーティスなど歴史に残るキレッキレなビート、シンコペーションを開発したのは「スワンパーズ」「ブッカー・T&ザ・MG's」など白人R&Bだったんだよね〜という音楽歴史映画。
どこから手を付けたらいいのか分からないほど濃厚な内容でして、印象深かった箇所を羅列しますに、ビートルズとローリング・ストーンズで奪い合ったアーサー・アレキサンダー楽曲、パーシー・スレッジ「When a Man Loves a Woman」、ウィルソン・ピケット「Land of 1000 Dances」、アトランティック移籍後のアレサ・フランクリン冒頭のオルガンより始まる「I Never Loved A Man」誕生秘話、ワイルド・ホース&ブラウン・シュガー誕生、デュアン&グレッグ・オールマン兄弟によるボトルネック秘話、キング・カーティス&ジミ・ヘンドリックス、そしてスウィート・ホーム・アラバマと墜落事故。これらのキーワードにピンと来ない人は肩透かし必至。気になるコアな音楽ファンは観ないとね。DVDは明日発売されます。
(ウィルソン・ピケットの「In The Midnight Hour」はフェイム違ったんだっけ?あれはメチャメチャ好き)
Sweet home Alabama Lynyrd Skynyrd
Now Muscle Shoals has got the Swampers
And they've been known to pick a song or two
Lord they get me off so much
They pick me up when I'm feeling blue
Now how bout you?
Sweet home Alabama
Where the skies are so blue
Sweet home Alabama
Lord, I'm coming home to you
「スウィート・ホーム・アラバマ」は去年の今時期観た「バックコーラスの歌姫たち」が詳細でした。改めて聴くとレイナード・スキナードって超ファンクだよね。
あ、肝心なこと書くの忘れていました。アリシア・キーズ可愛い。
満足度(5点満点)
☆☆☆☆☆
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コメント
ブルースブラザーズもお忘れなく
Posted by 名無しのキンペーちゃん☆ at 2014年12月02日 02:36
「コミットメンツ」という映画では、ここで作られた様々な楽曲のアイルランドでの需要っぷりが描かれているので、あの映画の前日譚として見てみたい。
Posted by 6号 at 2014年12月03日 13:29