2013年02月10日
【再録】阿曽山大噴火の「裁判Showに行こう」丑田(片山)祐輔「のまネコ」裁判録

裁判狂事件簿---驚異の法廷★傍聴記 (河出文庫 あ 15-2)

遠隔操作殺害予告事件容疑者の「のまネコ」裁判。
すでに削除済みの、8年前に阿曽山さんが日刊スポーツへ寄稿していたリポートをサルベージしてみました。
こちらが元記事。
http://www.nikkansports.com/ns/general/column/asozan030.html
これぞプロの裁判官、感動の被告人質問
報道された事件の裁判を、と言われてる当コーナー。先週はそのテの裁判が多かった。多分、この連載が始まって以来、最多だったんじゃないかな? それだけ数が多いと、傍聴したい裁判の時間帯がぶつかってしまうことも珍しくないわけです。テレビならビデオに録画すればいいんだけど、裁判はそうはいかないから、どの裁判を傍聴するかの判断に迫られっぱなし。頭を悩ませる1週間でしたね。
さて、今回は第26回にも書いた丑田祐輔被告人の裁判。罪名は脅迫・名誉棄損。匿名掲示板「2ちゃんねる」に、小学生・エイベックス社員の殺害予告などを書き込んだ事件です。
まずは母親の証人尋問。
弁護士「中学に入って被告人の様子が変わったようですね」
証人「学校でのことを話さなくなり、表情もなくなって何も言わなくなりました。後で分かったんですが、原因はイジメでした」
そのイジメが原因なのか、進学しても友達ができず、対人関係もうまくいかず…。弁護人は、被告人が回避性人格障害である、と主張してました。
回避性人格障害ってのは「恥をかくんじゃないか、イヤな思いをするんじゃないか」と恐れて、親密な人間関係を回避しようとすることが多いらしく、“社会的なひきこもり”なんて言い方もされているものです。
母親の証人尋問も終わり、エイベックスの被害総額1800万円も「できる限り被害弁償したい」という父親の証人尋問も終わって、被告人質問です。
弁護士「中学時代のイジメは、どんなことされたんですか?」
被告人「暴力を受けていました。殴られたり蹴られたり、ノコギリで頭を切られたり」
弁護士「中高ともにイジメを受けてた、と。大学に入ったら友達できましたか?」
被告人「サークルに入って飲み会などに参加したんですが『空気が読めない。ノリが変だ』と周りに言われて友達はできませんでした」
弁護士「事件のこと聞きますが、なぜこういうことをしようと思ったんですか?」
被告人「就職活動をしていると、企業が求めているのが自分と180度違う人物だったり、アルバイトで怒られたりして…。自分は社会に必要ない人間なんだと思うようになりまして…。人の反応を得ることがしたかったというのが理由です」
弁護士「それで、自分の書き込みに反応が多かったのを見て、どう思いましたか?」
被告人「その時は、誤った満足感に浸っていました」
弁護士「当時、バレなければ他人を傷つけてもいいと思ってました?」
被告人「他人が傷つくという考えすらなかったです」
あくまで誰かに相手にされたいがために書き込んだだけで、本当に殺害するつもりはなかったという主張が続き、弁護人の質問は終了。
次は検察官からの質問です。
検察官「2ちゃんねるはいつから利用してるんですか?」
被告人「大学に入ったころからです」
検察官「どういうところにひかれたんですか?」
被告人「他では見られないような話題が書き込んであって、言論の自由があるなと、ひかれました」
検察官「言論の自由って分かって言ってるんですか? 匿名で好き勝手言うのが、言論の自由じゃないでしょ!!!」
と大激怒。さらに
検察官「周りの人にノリが変だって言われたって言うけど、君の思い込みじゃないの?」
被告人「実際言われたので…」
検察官「それで、人付き合いがうまくないっていうのは、何か改善しようとしたの?」
被告人「いえ、ネットでは話せるけど、現実の自分に自信が持てないので…」
検察官「どう努力するかだろ! こんなことするなんて言語道断だよ」
と終始怒ってました。
そして最後は、裁判官からの質問。これが非常に興味深い内容でした。
裁判官「これで、匿名でやってると、相手にされたいって欲求は満たされないんじゃない? 自分の実名出すなら分かるけど」
被告人「自分の書いた文章に反応があれば、それで満足してました」
裁判官「ふ〜ん。あと、そもそも何で人に好かれたいの?」
被告人「…」
裁判官「1人でいればいいでしょ?」
被告人「やっぱり、仕事をするとなるとチームワークが必要になるので」
裁判官「チームワーク組まなきゃいいじゃん。人と付き合わない仕事探せばいいじゃん」
と、まだ仕事も決まってないのに思い悩んでる被告人に軽〜くアドバイス。
裁判官「人付き合い下手なんでしょ? 下手でいいじゃん。そういう人いっぱいいるし。自分の殻に閉じこもって生きてても、それでも生きてる価値は十分あるじゃない」
被告人「はぁ…」
裁判官「あなたはこうして会話もできるし、さっきから話を聞いてると頭もいいしね。理知的に話すし。どうなの? 人付き合いができないのはカッコ悪いのかね?」
被告人「それはあると思います」
裁判官「何でカッコ悪いの? 見栄でしょ?」
被告人「見栄っぱりのところがあるかもしれません」
裁判官「見栄なんか捨てればいいじゃん。人にはそれぞれ特性があるんだから。どんな人も、世間に迷惑かけずに生活していくべきなんだよ」
カウンセリングのようなやりとりです。「社会に必要ない人間なんだ」と思い悩んでる被告人に対して「そんな人いないよ」と建前を言うのではなく「人付き合い下手でいいじゃん」と言える裁判官ってすごいな。検察官のように法廷で「何か改善しようとしたの?」とか「どう努力するかだろ!」と頭ごなしにやり込めるのは、その後の更生にあまり役立たないように思う。まあ、検察官の法廷での仕事は被告人を更生させることではなく、犯罪を立証することだから、当然なんだろうけど。
それはともかく、この裁判官が被告人の良い所をほめながら質問する姿を見ると、回避性人格障害の人に対する接し方も慣れてる感じがした。自分に好意を持ってる人にしか心を開かない傾向があるらしいからね。これぞプロの裁判官って感じかな。
求刑は懲役3年。初公判の時に疑問だった「なぜ、他人の無線LANを使用したのに犯人が分かったのか?」は謎のままなんだけど…。
【インターネット掲示板で女児殺害を予告した事件】 05年11月、インターネットの掲示板「2ちゃんねる」で仙台市の小4女児殺害を予告したとして東京都江東区の専門学校生、丑田祐輔(当時23)が逮捕された。その後、大手レコード会社エイベックスの社長の名誉を棄損する発言を書き込んでいたことも発覚した。
◆阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。裁判ウオッチャーとして数多くの裁判を傍聴。 月刊誌「創」に裁判傍聴日記の「アホバカ裁判傍聴記」を連載している。主な著書に「裁判大噴火」(河出書房)。
パチスロはすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。定住する家を持たない自由人。パチスロと裁判傍聴で埋めきれない時間をアルバイトで費やす日々。
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