2018年12月17日
【映画評】パッドマン 5億人の女性を救った男
mixiチェック地域住民のみならず家族からも変態扱いされ絶縁状態でも尚、生理用ナプキン自作に拘り続けたインド人実業家のお話。
イントロダクション
インドで初登場NO.1の大ヒット!
衛生的なナプキンが手に入らず生理障害に苦しむインドの女性たちの現状、そして男性が“生理”について語るだけでも奇異な目で見られるインド社会の中で公開した本作は初登場NO.1の大ヒット!主人公ラクシュミ役のアクシャイ・クマールがみせたクライマックスの演説シーンは圧巻で観客を感動と涙の渦に巻き込む。
インドに革命を起こした<パッドマン>ことムルガナンダム氏
本作の物語には実在のモデルがいる。モデルとなったのはアルナーチャラム・ムルガナンダム氏。1962年南インド生まれの56歳。彼は商用パッド(ナプキン)の3分の1もの低コストで衛生的な製品を製造できるパッド製作機の発明者。かつ、女性たち自らがその機械を使い、作ったナプキンを女性たちに届けるシステムを開発した彼の活動は高く評価されて、2014年には米タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれたほか、2016年にはインド政府から褒章パドマシュリも授与された。
ボリウッドの実力派俳優たちが熱演
主人公ラクシュミに扮するのは、素朴で誠実な男性を演じさせたら右に出る者がいない人気男優、“インドのジョージ・クルーニー(!?)”ことアクシャイ・クマール。ボリウッドではトップの稼ぎ頭で演技力にも定評がある。妻ガヤトリ役には実力派女優のラーディカー・アープテー、ラクシュミを助けてナプキン普及に尽力する都会の女性パリーには、『ミルカ』(13)で日本でもお馴染みのボリウッドのトップ女優ソーナム・カプールが演じる。監督はユニークなテーマの作品を作り続けているR.バールキ。彼の妻は『マダム・イン・ニューヨーク』(12)の監督ガウリ・シンデーで、あの作品にもバールキ監督はプロデューサーとして関わっている。
純粋な妻への愛が使命に昇華した<パッドマン>の物語を是非ご覧ください!
ストーリー
「愛する妻を救いたい――。」
その想いはやがて、全女性たちの救済に繋がっていく。
インドの小さな村で新婚生活を送る主人公の男ラクシュミは、貧しくて生理用ナプキンが買えずに不衛生な布で処置をしている最愛の妻を救うため、清潔で安価なナプキンを手作りすることを思いつく。研究とリサーチに日々明け暮れるラクシュミの行動は、村の人々から奇異な目で見られ、数々の誤解や困難に直面し、ついには村を離れるまでの事態に…。それでも諦めることのなかったラクシュミは、彼の熱意に賛同した女性パリーとの出会いと協力もあり、ついに低コストでナプキンを大量生産できる機械を発明する。農村の女性たちにナプキンだけでなく、製造機を使ってナプキンを作る仕事の機会をも与えようと奮闘する最中、彼の運命を大きく変える出来事が訪れる――。
本物のパッドマン
アルナーチャラム・ムルガナンダム
Arunachalam Muruganantham
「パッドマン」として知られる社会企業家。1962年、タミル・ナードゥ州コインバトールで機織り職人の家に生まれる。幼い時に父が交通事故で亡くなったため、貧困の中で成長する。母が農園労働者として働き、彼を学校に通わせたが、それも14歳までで、以後様々な仕事に従事する。1998年に妻シャーンティを迎え、初めて女性の生理時の実態を知る。生理ナプキンが材料費の40倍もの値段で売られていることを知ったムルガナンダムは、ナプキンの手作りに乗り出すが、インド社会ではいまだタブーの生理に触れる彼の行動は様々な波紋を巻き起こす。本作に描かれたように、動物の血を使った実験や、女子医科大の学生に協力を仰ぐなどの努力を経て、2年後に市販ナプキンの材料セルロース・ファイバーにたどり着く。その後、ナプキン製造企業が使う大きな機械からヒントを得て簡便な製造機を発明、輸入品では3,500万ルピー(約5,600万円)していた機械が65,000ルピー(約10万円)で作れるようになった。2006年、チェンナイのインド工科大学で自らの機械をデモンストレーション、それが草の根テクノロジー発明賞を受賞する。以後、簡易ナプキン製造機を作っては女性の自助グループに販売し、起業と意識改革をうながした。その対象はインドのみならず、海外にも広がっている。それらの功績に対し、2014年には米タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれたほか、インド政府からは2016年に褒章パドマシュリを授与された。
『パッドマン』をより楽しむための7つの知識 (アジア映画研家・松岡 環)
1. 映画の舞台
映画のロケ地となったのは、主として北インドのマディヤ・プラデーシュ州。マディヤ(中央)・プラデーシュ(州)の名の通り、MP州とも略されるこの州は、インドのほぼ真ん中にある。州都はボーパールだが、その西南にあるのが、MP州で最大の人口204万人を擁するインドール市。映画の後半の舞台は主としてインドール市で、前半はさらにその西南に位置するマヘーシュワルという町で大半のロケが行われた。
古い歴史を持つマヘーシュワルはナルマダ(ナルマダー)河の北辺に広がっていて、信仰の対象ともなっているナルマダ河の岸辺にはガート(沐浴場)が連なる。ラクシュミが自転車を走らせるのがこのガートで、その時に彼が地元の人と交わす挨拶も、「ナルマデー・ハル(聖なるナルマダー河よ/ナルマダー河を讃えよ)」というもの。長いため字幕には訳出してないが、美しい挨拶だ。そんな聖なる河を動物の血で汚した、というので、ラクシュミに対する人々の怒りもハンパではなかったのである。また、最後のシーンでラクシュミとムルガナンダム氏が立っているのは、18世紀にこの町に遷都したホールカル家の女当主アヒリヤー・バー・ホールカルが建設した、ホールカル・フォートの入り口である。
2.結婚のしるし
ラクシュミとガヤトリの結婚式から始まる本作は、地方の伝統的な結婚式の様子を垣間見させてくれる。赤いターバンをかぶり、白いクルター(丈の長いシャツ)とドーティー(腰布)姿の新郎が、赤いサリーを着た新婦と衣服の端を結び合わせ、火の周りを7回回る。周囲ではシャヘナーイーというチャルメラに似た管楽器が高らかに結婚のメロディーを奏で、人々は新郎新婦に花や米を振りかける。ヒンドゥー教徒の典型的な結婚式である。
北インドでは結婚後、妻はマンガルスートラと呼ばれるネックレスを常に身につける。黒と金色のビーズからなるネックレスで、金でできたヘッドが付いている。これは、夫が存命の人しか付けることができず、反対に言うと、マンガルスートラは幸せな人妻のしるしなのである。ガヤトリは実家に連れ戻されてもずっとマンガルスートラを付けており、夫を思う気持ちがそこから感じ取れる。また、マンガルスートラと同時に、髪の分け目の額部分にシンドゥールと呼ばれる赤い粉を付けるのも、伝統的な妻のスタイルだ。額には、誰でも色粉やシール状のビンディー(「クムクム」とも。昔は赤色だったが、今はサリーの色に合わせた色のシールを貼り付けるのが一般的)を付けることができるが、髪の分け目に赤い粉付けられるのは、これも幸せな人妻だけである。注意深く見るとガヤトリ以外にも、ラクシュミの一番上の妹ら既婚の女性たちが、この結婚のしるしを付けているのがわかる。
3.兄弟姉妹の祭り
最初の歌が終わった後に登場するのは、すでに嫁入っているラクシュミの一番上の妹が実家に帰ってくるシーン。この日は「ラクシャー・バンダン」のお祭りの日なので、兄のラクシュミに守り結びの紐を結ぼうとやってきたのだ。ラクシャー(守護)・バンダン(縛るもの)の祭りは年によって日付が違ってくるが、大体8月になることが多い(2018年は8月26日)。これは、姉妹、またはそのような関係にある女性が、兄弟、またはそれと同等と思われる人にラーキー(結び紐)を贈ってその手に結び、自分を守ってほしいと祈る祭りなのだ。お祭り自体を「ラーキー」と呼ぶこともあり、この時期になると色とりどりの結び紐が町のあちこちで売られる。ミサンガのようなものと思えばよいが、紐の途中にきれいな金属の飾りを挟んだり、豪華な造花を付けたりと、凝ったものも多い。直接相手の手に結ぶのがベストだが、遠く離れて暮らしている人には郵送することもあり、この時期はインド国内のみならず、インドと諸外国を結ぶ郵便ルートに乗って、ラーキーが世界の空を飛び交う。
気をつけないといけないのは、あくまで女性側は兄弟、または兄弟とみなす人にしか贈ってはいけないことで、うっかりと恋する人に贈ったりすると結婚できなくなってしまう。ラーキーを贈ることによって、二人は兄弟・姉妹関係になるためで、近親間の結婚は不可能なのである。贈られる側は、実際の兄の場合は本作に出てくるようにご祝儀を返すのが普通で、弟の場合も「姉を守らなくては」との自覚を芽生えさせるようだ。「ラクシャー・バンダン」のほかに「バーイー・ドゥージ(兄弟の第2日)」という北インドやネパールで行われるお祭りもあり、こちらは10月頃のお祭りシーズンに重なる。どちらもヒンドゥー教徒のお祭りだが、「ラクシャー・バンダン」は他宗教の人も祝うことがある。
4.ナプキンの値段
本作のオープニング時は2001年に設定されていて、ラクシュミのセリフの中でも「今は2001年だぞ。古くさい考え方はやめろ」という言葉が出てくる。実はこのセリフ、直訳&全訳すると、「今は2001年が進行中だ。ラーニー・ムケルジーの時代にデーヴィカー・ラーニーのセリフを言うなんて」となる。登場したのはいずれも女優の名で、ラーニー・ムケルジーは、オープニングの歌の中でラクシュミとガヤトリが自転車に乗って見に行った映画『何かが起きてる』(98)の主演の1人。この映画のあとトップ女優となり、2012年頃まで活躍を続けて、現在でも時折主演作が登場する。一方デーヴィカー・ラーニーは、サイレント時代から第二次世界大戦期まで人気のあった女優である。
それはともかく、2001年頃の「ナプキン55ルピー」とは、どのくらいの物価感覚だったのだろうか。インドは大都市と地方との格差が日本とは比べものにならないぐらい大きいので、古い資料をくって当時の地方都市の物価を調べてみた。2001年にもらったチェンナイの中華ファーストフード店「ヌードル・キング」のチラシでは、「野菜焼きそば」が23ルピー、「チキン焼きそば」が32ルピー、そしてソフトドリンクやコーヒーが1杯5ルピーとなっている。55ルピーあれば、菜食主義者なら2人がドリンク付きの焼きそばを食べられる、という計算だ。「ナプキン55ルピー」はドリンク代の11倍の値段なので、今の日本に当てはめてみると、マックのドリンク類が1杯100円としてその11倍、「ナプキン1100円」ということになる。これではやはり、ガヤトリが尻込みするはずである。
5.インドの神々
本作には、面白い宗教装置が登場する。からくりを使った、ヒンドゥー教の神様礼拝所だ。最初に登場するのはハヌマーンで、これは古代叙事詩「ラーマーヤナ」に登場する猿の武将。「ラーマーヤナ」は桃太郎伝説のルーツとも言われ、後半部では主人公ラーマ王子が、魔王ラーヴァナにさらわれた妻シーター姫を奪還しようと、猿の軍隊と共にラーヴァナの本拠地ランカー島に攻め入る。猿の王国の武将で勇猛なハヌマーンはラーマを助け、囚われのシーター姫と連絡を取ったり、傷ついたラーマの弟ラクシュマナのためにヒマラヤ山中に薬草を採りに行ったりと大活躍。こうしてハヌマーンは神様ではないものの、多くの人から信仰されており、特に体を鍛えようとするマッチョ志向の男性陣に人気がある。
次に登場するのがクリシュナ神で、こちらはヒンドゥー教三大神の1人、ヴィシュヌ神の化身。ヴィシュヌの化身(「アヴァタール」と言い、ネット用語「アバター」の語源である)は10あり、その中にクリシュナのほか、ラーマやブッダも入っている。クリシュナは幼い時からいろんな逸話を持ち、プレイボーイとしても知られているが、その華やかさも手伝って特に女性に人気が高い。
なお、本作中に登場する宗教としては、人物のほとんどがヒンドゥー教徒であるが、パリーの父親はターバンをかぶり、髭を生やしていることからシク教徒とわかる。また、ラクシュミが新しいナプキンを試してもらおうと協力者を探すシーンで、黒いブルカをかぶったイスラーム教徒の女性たちと、キリスト教のシスターたちが登場する。こんな風に、人口の79.8%を占めるヒンドゥー教徒だけでなく、14.2%のイスラーム教徒、2.3%のキリスト教徒、1.7%のシク教徒なども登場させる目配りは、最近のインド映画では珍しくなくなってきた。
6.インド工科大学
本作には、大学がいくつか登場する。ラクシュミがナプキンを試してもらおうとする女子医科大学、セルロース・ファイバーの知識を得ようとして、ついにはある教授の家の使用人となって教員宿舎に住み込んでしまうインドールの工科大学。そして、パリーのお父さんが勤務するデリーの大学で、発明コンペが開催されるIIT(Indian Institute of Technology)、つまりインド工科大学だ。
インド工科大学はいわば国立のチェーン校で、インド全土の23箇所に設置されている。一番最初にできたのは西ベンガル州のカラグプル校で、インド独立から4年経った1951年のこと。続いて1956年にボンベイ校(現ムンバイ校)ができ、以後2016年のカルナータカ州のダールワード校で23校目となる。
インドは「ゼロを発明した国」として知られるように、理数系に優れた人を数多く輩出している。日本でも一時期「インド式数学」が話題になり、2桁のかけ算をすらすらとやってしまうインドの小学生に注目が集まったりしたが、IITはそういった理数系の頂点に立つ大学であり、一説には「MIT(マサチューセッツ工科大学)に入るよりIITに入る方が難しい」と言われるほど。各IITの卒業生は世界中で活躍しているが、そのエリート意識も並々ならぬものがある。こういう大学だからこそ、ラクシュミがクライマックスの国連演説で言う「工科大(IIT)行ってない、工科大がうちに(学びに)くる、賞もくれる」という発言が効いてくるのである。
7.女性の自立
本作には、対照的な2人のヒロインが登場する。ラクシュミの妻であるガヤトリと、ラクシュミのビジネス・パートナーと言えるパリーだ。
ガヤトリは実家の兄が決めた結婚相手ラクシュミに嫁ぎ、家事に従事する。いつもサリー姿で過ごし、生理の時は穢れが家の中に入り込まないよう、廊下部分で寝起きすることに何の疑問も持たない。自分のためにナプキンを作るという夫のとっぴな行動に驚くものの、何とか彼の役に立とうとするが、「夫に従う妻」の域を出ない意識のため、やがて周囲によって引き離されてしまう。
一方パリーは、大学を出てさらにMBAのコースで学んでいる女性だ。首都デリーに住み、大学教授であるリベラルな父に育てられた彼女は、常に自分が正しいと思った道を選び取り、大企業の就職試験に合格していながら、それを蹴ってラクシュミの草の根事業を手伝っていく。服装も、サルワール・カミーズかクルター・パジャマという、インドの伝統衣装でありながら行動的なものだ。最後の国連演説の場では絹のサリー姿を披露しているが、典型的な自立する女性である。観客の心には、魅力的なパリーがいつまでも印象に残ることだろう。
さらに本作には、第三のヒロインと言える存在がいる。自らナプキンを作り、それを販売していく農村の女性たちだ。パリーの提案で彼女たちが銀行から受ける融資は「マイクロ・クレジット(小規模融資)」と呼ばれるもので、現在、インド各地で女性対象の開発プログラムの一環として実施されている。女性に融資すると返済率が高いと評価されており、所得創出活動や教育普及活動とならんで、女性の自立を促す重要なプログラムの一つだ。本作のような、興行収入トップ10に入る作品で描かれると、こういったプログラムの認知度も上がっていく。本作は、インド女性の自立を応援する作品でもあるのだ。
主役を演じたインド人俳優は長谷部誠の兄弟なのか??
変態扱いされる迫害描写の前半より後半の草の根ビジネスパートが凄く面白かったです。
ビジネスパートナーの女性が綺麗すぎて堪らんかったですし、バカ嫁捨てて聡明でお金持ちで清貧で美人で若い妖精さんと添い遂げるものかと思いきや、手段と目的を決して履き違えず貞操を守り続ける主人公に、もやもや感。国連での演説シーンは映画「ボヘミアン・ラプソディ」のウェンブリー・スタジアム演奏シーン並のカタルシスでした。
満足度(5点満点)
☆☆☆☆
本邦上映されるインド映画は上映選定に吟味に吟味を重ねているのかどれもハズレ無しなので安心して観られますね。次に公開されるインド映画「バジュランギおじさん」も素晴らしい作品との事で楽しみ。
コメント
>主役を演じたインド人俳優は長谷部誠の兄弟なのか??
長谷部さんはワールドカップの時もペルー人説が流されたり
国際的なスターですね
長谷部さんはワールドカップの時もペルー人説が流されたり
国際的なスターですね
Posted by 名無しのぱよぱよちーん at 2018年12月17日 20:43
酒を飲みつつふらっと寄せてもらったんで、責任は持てんが、クールランニングに感じたような良作の匂いがする。
Posted by 通りすがりの二日酔い at 2018年12月24日 23:35