2017年01月06日

【映画評】こころに剣士を

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Vehkleja (Miekkailija / The Fencer) Blu-ray English subtitles
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タイトルだけ見たら山賢人と桐谷美玲や広瀬すずが主演馬鹿ドラマのような気がしますが、ソビエトとナチスドイツに蹂躙された終戦直後エストニアを描く実話ベースの骨太映画。原題は「The Fencer(フェンシング選手)」

映画『こころに剣士を』公式サイト

イントロダクション
ソ連の秘密警察に追われ、教師として田舎町に身を隠すエンデル。フェンシングを教えることで子供たちと心を通わせるが、決断の時が迫る──

 1950年初頭、エストニア。ソ連の秘密警察に追われる元フェンシング選手のエンデルは、小学校の体育教師として田舎町ハープサルに身を隠す。その町では、子供たちの多くがソ連の圧政によって親を奪われていた。やがてエンデルは課外授業としてフェンシングを教えることになるが、実は子供が苦手だった。そんなエンデルを変えたのは、学ぶことの喜びにキラキラと輝く子供たちの瞳だった。なかでも幼い妹たちの面倒を見るマルタと、祖父と二人暮らしのヤーンは、エンデルを父親のように慕うようになる。だが、エンデルに不審を抱いた校長は、エンデルの身辺調査を始めていた。
 そんな時、レニングラードで開かれる全国大会に出たいと子供たちからせがまれたエンデルは、捕まることを恐れて躊躇うが、子供たちの夢を叶えようと決意する。果たして彼らを待ち受ける予想もしない出来事とは? 遂に、子供たちとエンデルそれぞれの戦いが始まる──。

伝説の巨匠イングマール・ベルイマンから称えられた監督がエストニアの国民的俳優の主演で贈るすべての人に勇気をくれる物語。

 監督は、『ヤコブへの手紙』(09)のクラウス・ハロ。フィンランドを代表する監督だが、2004年にスウェーデンのアカデミー賞であるゴールデン・ビートル賞のイングマール・ベルイマン賞を受賞した。この時に、世界的な巨匠として映画史に名を残す、『野いちご』(57)『ファニーとアレクサンデル』(82)のイングマール・ベルイマン監督が自ら、作品を称える手紙を彼に送ったという。さらに、長編監督作品全5作のうち、本作を含む4作がアカデミー賞R外国語映画賞のフィンランド代表作品に選ばれるという快挙を成し遂げた。また本作は、2016年のゴールデン・グローブ賞外国語映画賞にもノミネートされ、フィンランド・アカデミー賞の作品賞に輝いている。
 エンデルを演じるのは、エストニアでは知らぬ者のいないスター俳優、『バルト大攻防戦』(02・未)のマルト・アヴァンディ。本国では主にコメディ作品で絶大なる人気を得ているが、本作では人間不信に陥った男が、親を奪われた子供たちとの交流で、人を愛し信じる心を取り戻していく姿を繊細に演じた。
 好奇心に満ちた瞳が愛らしいマルタを演じるのは、本作が長編映画出演2作目となる注目の子役リーサ・コッペル。ヤーンに扮するのは、オーディションで選ばれたヨーナス・コッフ。これが映画初出演とは思えない情感豊かな表情で、祖父との別れを演じた。また、数多くの賞に輝いた『みかんの丘』(13)の主演を務めた、エストニア随一の演技派俳優レンビット・ウルフサクがヤーンの祖父を演じ、スクリーンに名場面を残している。
 エストニアで大々的なロケ撮影を敢行。バルト海、原生林、湿原と多様性に富んだ独特な美しさを持つエストニアの風景を余すところなく捉え、フィンランド・アカデミー賞の撮影賞を獲得した。
 いつの時代もどこの国でも、悲しい歴史を作った大人たちに、子供たちはやり直すチャンスを与えてくれる。未来を信じる子供たちの姿が、すべての大人に明日を生きる勇気をくれる希望の物語が誕生した。

ストーリー
鞄ひとつで、エストニアの小さな町ハープサルに降り立つエンデル(マルト・アヴァンディ)。小学校の体育教師に志願する彼を、校長はなぜわざわざこんな田舎町にと、不審を抱きながらも採用する。
 第二次世界大戦中にドイツ対ソ連の戦いの場となったエストニアは、1950年初頭の現在、スターリン指揮下のソ連に併合されている。戦時中にドイツ軍にいたことから秘密警察に追われるエンデルは、身を隠すためにこの町へ来たのだった。
 校長から運動クラブを開くように言われて、途方に暮れるエンデル。体育用具も軍に寄贈されてほとんど残っていない。レニングラードでは有名なフェンシングの選手だったエンデルが一人で剣を振っていると、マルタ(リーサ・コッペル)が「教えてください」と目を輝かせる。エンデルはフェンシング・クラブを開くことにする。
 約束の土曜日に体育館に現れたエンデルは、集まった子供たちの多さに面食らう。だが、レッスンを始めても子供たちはおしゃべりをやめないし、野原の葦を集めて“剣”を作っても、まともに構えることすらできない。
 同僚の教師のカドリ(ウルスラ・ラタセップ)に、「正直に言うと、子供は苦手だ」と打ち明けるエンデル。カドリはエンデルに、スターリン政権に親を連れて行かれた子供たちも、何かに打ち込んでいる間だけはつらいことを忘れられると励ますのだった。
 エンデルは「改めて基本からみっちり練習しよう」と張り切るが、力が入りすぎて上手くできないヤーン(ヨーナス・コッフ)を厳しく叱ってしまう。涙を浮かべたヤーンの「先生は、本当は僕らが嫌いなんだろ」という言葉に目の覚めたエンデルは、「必ず君を剣士にしてやる」と約束するのだった。

 エンデルは子供たちに真っすぐに向き合い、それを受けた子供たちはみるみるうちに上達していく。ところが、子供たちがエンデルを父親のように慕うことに嫉妬した校長が、「フェンシング部は認めない」と保護者会で中止を発表する。しかし、大学時代にフェンシング選手だったヤーンの祖父(レンビット・ウルフサク)を始め、元気を取り戻した子供たちの姿に喜ぶ保護者たち全員が、エンデルを支持するのだった。
 追っ手が近付きつつあることを心配した親友のアレクセイからシベリアでのコーチの仕事を紹介されるが、エンデルは子供たちを置いて行けないと断ってしまう。一方、校長は教師の一人にエンデルの経歴を詳しく調べるよう指示していた。
 ある朝、登校すると、興奮した子供たちに囲まれるエンデル。新聞に案内が出ていた、フェンシングの全国大会に出場したいというのだ。だが、レニングラードで開催されると聞いたエンデルは表情を曇らせ、「君たちにはまだ早い」と却下してしまう。
 エンデルの背中を押したのは、「挑戦してみたい」と訴えるマルタと、祖父が政府に連行されて悲しみに暮れながらも懸命に練習を続けるヤーンの姿だった。エンデルは大会に出場すると宣言、子供たちを連れて、危険の待つレニングラードへと向かうのだが──。

監督インタビュー

─ 本作の監督を引き受けた経緯を教えてください。
 アナ・ヘイナマーの脚本が素晴らしかったからさ。アナは小説家で、本作が初めての映画脚本だったけれど、映画で物語を伝える上で大切なことを理解していた。物語は物静かな男が子供たちにフェンシングを教えている場面から始まり、これはいい物語だという予感がして、冒頭から完全に心を掴まれたよ。いつ物語が平坦になるのかと読み続けたけれど、最後までずっと心を掴まれたままだった。あんなに引き込まれるとは想像していなかった。素晴らしい映画に必要なすべてが盛り込まれていて、監督にとっての挑戦もたくさんあったから、この映画を撮りたいと思ったんだ。この類まれなる脚本は製作の大きな基盤となり、出資者たちの心を引きつけた。スタッフ全員が長時間働き、全力を尽くしてくれたのも、この物語が各人にとって意味のあるものだったからだ。

─ フェンシングには、どれくらいの知識がありましたか?
 1度もやったことがなかったから、撮影前に2回レッスンを受けたよ。フェンシングは正確さと距離感が大切だから、主演のマルト・アヴァンディは2カ月間も特訓した。脚本のアナはエンデルの実の娘に会ったし、映画にはエンデルの子供たちが出演している。彼の息子もフェンシングの先生になった。そして、彼の子供の子供たちもね。代々受け継がれているのさ。

─ 子供たちを撮ることについてはどう思われましたか?
 子供と大人の出会いにまつわる物語には以前から興味があった。子供時代、必要な時に元気付けてくれて、夢を実現させるため、望む仕事に就くために、正しい方向に背中を押してくれた大人の存在や言葉が、ほとんどの人にあるはずだ。僕にも映画を撮ることを勧めてくれた先生たちがいた。彼らがいなかったら、映画監督になっていなかったと思うよ。本作の核となるテーマは、子供の人生における大人の役割だ。子供やその関心事を大人がどのように捉えるか、どのように大人が子供を正しい方向に導くか。人はどのようにして自分らしく成長していくのかという問いは、とても興味深くて、頭を悩ませるものさ。僕は人生について、真実を語る物語を伝えたいんだ。

─ 主役の俳優はどのように選びましたか?
 主人公のエンデル役を演じたマルト・アヴァンディは、騎士のような容姿と、ベルイマン監督作によく出演している俳優マックス・フォン・シドーに似た雰囲気に惹かれた。エストニアでは彼は大スターだとは知らなかった。子供たちがサインを求めて彼に駆け寄って来るので、一緒に通りを歩けなかったほどだ。エストニアで毎年お正月に放送される、国民の半数が見るような人気番組や、たくさんのコントに出演しているんだ。テレビでの活躍で有名だが、シェイクスピア劇やアメリカの古典の名作舞台にも出演していて、テネシー・ウィリアムズの舞台を見たことがあるよ。彼の祖父はソ連時代の最も稼ぐ俳優だった。マルトはリーサとテレビ番組で共演したことがあって、「彼女は天才だよ!」と僕に教えてくれたんだ。
 祖父役を務めたレンビット・ウルフサクは、とてもプロ意識の高い、素晴らしいエストニア人俳優だ。僕は俳優にあれこれ言うのが好きじゃない。たくさん話し合いたい俳優にはそうさせるけれど、話し合いたくない俳優もいる。レンビットがそうだ。少しのディスカッションで役にアプローチする。彼は決して同じ演技を繰り返さないから、一緒に仕事をしてすごくワクワクする俳優だよ。マルトのように撮影は毎日ではなかったけれど、とてもいい関係が築けた。

─ エストニアについて、どう思いましたか?
 近い国なのに、エストニアには行ったことがなかった。到着したばかりの頃、地平線を見た。とても美しくて、泣きたくなるほど悲しかった。半旗を掲げていたからだ。1940年、ソ連はエストニアを占領した。ポーランドのように強固に支配しようと、ソ連はたった一晩で何千人もの人を国外追放し、彼らを散り散りにした。僕はこの映画を、招かれざる客が押し入ってきて、美しいものを破壊していくような感じにしたかった。エストニア人たちは、50年間、無人地帯に暮らしていたんだ。そこには隠された美しさや詩があった。僕はそれを輝かせたかったのさ。

─ フィンランドで、どのように映画監督になったのですか?
 僕が幼い頃、フィンランド人でさえ映画館でフィンランド映画を観ることはなかった。初めて観たのは『E.T.』だよ。衝撃を受けたね。学校では監督と脚本を学んだけれど、あまり僕には合っていなかった。とても理論的な勉強で、実践的ではなかったんだ。だから映画に関わる様々な仕事をしてから映画学校に戻って、短編映画をたくさん作った。監督1作目の『Elina』はスウェーデンで撮った。当時フィンランドでは、映画監督の多くが1本しか映画を撮らなかったんだ。最終的に、スウェーデンの映画会社や共同製作会社から多大な協力を得ることができた。




フィンランド+バルト三国がロシア方面より蹂躙された歴史はペラペラな知識しか持ち合わせていませんが、連合国側より見捨てられ、ソビエトと対抗するためナチス・ドイツを活用せざるを得なかった地政学的リスクは我が国ともオーバーラップします。「継続戦争」はガルパンでも活用されていましたね。ナチス・ドイツを望まないエストニアの人はフィンランド軍に志願しソビエトと戦ったそうで。

そういうややこしいツイスト状態はドイツ敗戦〜ソ連より占領という形で終戦となり、国を守るためソビエトと戦った人達は反共=売国奴として続々粛清〜これも終戦後の韓国を彷彿。昨今騒がしい朴槿恵大統領洗脳騒動もここが起因。という背景状況はさておき、本作は熱血スポ根ストーリーとソビエト秘密警察に追われる主人公のハラハラ・ドキドキがハイブリッドとなっていまして、一粒で二度美味しいでなく、注意散漫な印象。どちらか絞って展開した方がよかったのでは?とはいえいい映画でした。

子供にスポーツを教える難しさや楽しみは万国共通。私も十年以上少年スポーツの指導者をやらせて頂きましたが、現場より離れてそれなりの時間が経ちました。最後の直接の教え子が最終学年としてここ数日、某競技の全国大会に出場していましてなんとも感慨深いです。女子競技方面にも教え子がいますので、なんとか東京五輪に出場出来ればと。

満足度(5点満点)
☆☆☆

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Posted by kingcurtis 固定リンクComments(1)映画 
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コメント
ちゃんとオールドスタイルの剣や防具使ってますね。
Posted by んんー at 2017年01月07日 01:42
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