2016年10月03日

【映画評】オーバー・フェンス

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黄金の服 (小学館文庫)
黄金の服 (小学館文庫)

故佐藤泰志さん函館三部作のラスト。
【映画評】そこのみにて光輝く

映画『オーバー・フェンス』公式サイト   大ヒット公開中!

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イントロダクション
2010年、熊切和嘉監督『海炭市叙景』、2014年、呉美保監督『そこのみにて光輝く』。そして2016年、山下敦弘監督『オーバー・フェンス』。

没後四半世紀を迎え、ますます再評価が高まる孤高の作家佐藤泰志の小説を現代日本を代表する気鋭たちが映画化するシリーズが、いよいよ最終章を迎える!オダギリジョー×蒼井優×松田翔太×山下敦弘監督邦画界を支える豪華スタッフ・キャスト陣が圧倒的な力で紡ぎだした純粋で不器用な者たちの、愛しくも狂おしい青春その生涯において五度も芥川賞にノミネートされながら受賞することなく逝った佐藤泰志。「オーバー・フェンス」は彼にとって最後の芥川賞候補作となった作品で、作家活動に挫折しかけた時代に職業訓練校に通っていた自身の体験を基にした物語である。山下監督は「その瞬間を生きている人間たちの映画にしたい」と撮影前に記したが、まさに本作は、過酷な状況下で、それでも何かを求めずにはいられない「わたしたち」の一瞬一瞬にシンクロする。特定の時や場所を超え、誰しもの生涯の一本になる、映画監督、山下敦弘の熟成と新境地が類稀なる邂逅を果たした傑作がここに誕生した―。

ストーリー
家庭をかえりみなかった男・白岩は、妻に見限られ、東京から故郷の函館に戻りつつも実家には顔を出さず、職業訓練校に通いながら失業保険で暮らしていた。訓練校とアパートの往復、2本の缶ビールとコンビニ弁当の惰性の日々。なんの楽しみもなく、ただ働いて死ぬだけ、そう思っていた。ある日、同じ職業訓練校に通う仲間の代島とキャバクラに連れて行かれ、そこで鳥の動きを真似る風変りな若いホステスと出会う─ 。名前は聡(さとし)。「名前で苦労したけど親のこと悪く言わないで、頭悪いだけだから」そんな風に話す、どこか危うさを持つ美しい聡に、白岩は急速に強く惹かれていくが… 。自由と苦悶のはざまでもがく女の一途な魂にふれることで、男の鬱屈した心象は徐々に変化していくが、それでもままらない時間を過ごすしかない一組の男女。そして孤独と絶望しか知らなかった男たち。
美しく壊れかけた男と女がフェンスの先に見つけるものは―。

プロダクションノート
撮影 近藤龍人 × プロデューサー 星野秀樹 対談
「何かを取り戻そうとしている」町で描く「ここで生きていこうとする」人たち

近藤:正直なことを言えば、(函館三部作の)2本を撮って、次の3本目、誰が監督するのかわからないけど、そろそろ(撮影監督は)オレじゃないといいなあ、という気はしてたんです(笑)。前の2作品は自分なりにかなり考えて撮ってきたものだっただけに、今回どうしようかということをゼロから考えるというより、やっぱり前とは若干違うことを発想していきました。やはり、ひとつずつ自分の印象を更新していかないといけない。原作が同じ人でテイストが似ていたりすると、前の作品を引き摺りがちになってしまうので。ただ、今回はカラリとしたハッピーエンドで終わりたいと、星野さんからうかがっていたし、新たな気持ちで臨んだつもりです。監督が変われば視点も変わる。監督が考えてることも変わる。それを頼りに毎回やってきただけですけどね。

星野:『海炭市叙景』のとき、熊切(和嘉)さんが言っていたのは、「函館山から見下ろした、冬の函館の瓦礫のような町を撮りたい」ということでした。近藤さんはスーパー16のフィルムで撮った。ちょうど、フィルムとデジタルの過渡期のタイミングでした。『そこのみにて光輝く』のときは、撮影的には近藤さんと照明の藤井(勇)さんの作戦がすべてだったと思います。最後のシーン(ラスト)、近藤さんは集中力がハンパなくて。ものすごく気迫が伝わってきて、近づけないくらいの緊張感に感動しました。『オーバー・フェンス』は、監督が決まる前に脚本の高田さんと一緒にシナハン(シナリオハンティング)に行って。『海炭市』で使ってないところを探して、シナリオに書いておこうと思ったんです。函館山の公園は使ってないし、奇妙な雰囲気がある。昭和のたたずまいもある。ここを舞台に出来たら面白いかもなと。ヒロインの聡が働いてる設定にしようと。あとは最後の幸せな風景さえ撮ってもらえればおまかせでした。

近藤:あの公園は、これまでまったくノーマークだったんです(笑)。というか、2本にそういう状況とかシチュエーションはなかった。今回ああいうところを使って撮影できたのは面白かったですね。10年前の函館の印象は、駅前も閑散としていて、さびれた町だったんですが、ここ何年かで、若干綺麗になり、繁華街にも若干人が戻っている印象があった。「何かを取り戻そうとしている」町に見えたので、そんな匂いが少しでも残せたらな、という想いもありました。ボロボロの観覧車がある、人も来ないような公園なんですけど、もしかしたら、あそこにまた子供たちが来るのかな……と。そういう函館をまた見てみたいなと思わせてくれる、いい雰囲気のある場所でしたね。いい舞台でした。『オーバー・フェンス』は、「ここで生きていこうとする」人たちの話だから。町には明るい部分も見えてくれたらいいなと。あと、町の印象を薄くしたいと思ったんです。特殊な場所にしたくないなと。そこは函館かもしれないし、他の町かもしれないし、というような。実景も、あまり劇的に函館山を入れたりはしてません。

星野:近藤さんのことを、あらためて凄いと思ったのは、グラウンドのシーンがあるじゃないですか。近藤さんが選んだあのロケーション、当初、実は僕は反対だったんです。他にふたつ、もっといい野球場があるのに、と。ただ、近藤さんはガンとして「ここだ」と。そこには近藤さんならではの狙いがあったんだろうなと。出来上がりを観たら、ああ、ここで良かったんだなと。いつも(映画の中の)町の構造を構築するのは近藤さんなんです。そこは脚本作りの段階ではわからないところなんですよね。たとえば、コンビニなんかも、近藤さんが選んだところを「ここなの?」と思うわけですよ。僕が当初抱いていたイメージとは全然違うんです。

近藤:ってことは、星野さんと僕は合ってないってことじゃないですか(笑)

星野:いやいや、でも結局「なるほどな」となるんですよね。白岩のアパートも、最初見たときは「ここでいいのかな?」と思うんだけど、やっぱりいいんですよね。オダギリ(ジョー)さんが現場入りして、アパート前でノミを研いでるカットで、凄いなと。『オーバー・フェンス』は、僕にとって、あのカットの印象が強いです。これは、凄い映画になる、と思いました。

近藤:撮影二日目とかですかね。

星野:プロデューサーのイメージを裏切り続ける……おそろしい男ですよ。

近藤:大問題じゃないですか(笑)

星野:でも、そこが近藤さんの凄いところだと思いますよ。我々程度のイメージを凌駕してくる。僕は「日本の(エマニュエル・)ルベツキ(アカデミー賞最優秀撮影賞を三年連続受賞した撮影監督)」だと思っているので。

近藤:とんでもない。

星野:近藤さんはいずれ『レヴェナント 蘇えりし者』みたいなものを撮るだろうと。

近藤:じゃ、また北海道で(笑)

星野:今度はもっと奥のほうでやりましょう(笑)


監督 山下敦弘 × 脚本 高田 亮 × プロデューサー 星野秀樹 対談
人生はこれからどうなるかわからないし それでいいんだと

山下:星野さんにはプレッシャーだけは与えられましたね(笑)。「最終章を傑作にしましょう」と。「山下=近藤バッテリーだから、凄いのができるだろう」と。この2つはことあるごとに言われましたね。

星野:だって、黄金のバッテリーじゃないですか。一映画ファンとして観たいと思ったんです。『海炭市叙景』からの企画者である函館シネマアイリス・菅原さんから『オーバー・フェンス』の映画化をご提案され、描かれているのはソフトボールですが、これはある種の野球映画にもなるんじゃないかと思いました。あと、佐藤泰志函館三部作として考えたとき、『海炭市叙景』と『そこのみにて光輝く』はかなり鬱屈した苦しい話なので、最後は前向きな話をやりたいなと。佐藤さんの小説の中で『オーバー・フェンス』は例外的に前向きな話でした。原作自体も唯一、佐藤さんが憧れた世界というか。作家を諦めて一回函館に帰ったときに、たぶん手に職も何もないから職業訓練校に通ってみたんでしょうね。そこにいろんな人がいたんだと思うんです。その後、佐藤さんは芥川賞にノミネートされて東京に戻ったりはするんですけど、その職業訓練校時代に自分が想像した憧れの世界を小説にしたんじゃないかと。何かそこに希望を感じるんですよね。

高田:ただ、『オーバー・フェンス』は小説として読むとすごくいい気持ちになるんですけど、だけど(映画にするとなると)これ、話ってなんだっけ? と。何を乗り越えたわけでもないのに、なぜか最後、「もう缶ビールを2本飲むのはやめよう」となる。すごく気持ちが変わってるけれど、いつ? って。最初に、20代の主人公を30代後半から40代ぐらいに設定して、僕と星野さんと同世代の話にしたらどうだろう? と菅原さんからの提案があって、そこから考えていったんですが、最初はそうするべきか全然わかんなかったんです。もうひとつは(佐藤泰志の別の短編小説)「黄金の服」の女性をヒロインにして、話を盛り上げようと。その女がまたわからなくて。あとプロデューサーから今回はダンスを入れられないかと。

山下・星野:(笑)

高田:確かに原作とは別な要素は必要ですけど、最初はすごく抵抗してたんです。ダンスを習ってる女……とかはイヤだなと(笑)。シナハンであの公園に行ったとき、ミニ動物園があって。そこに結構、鳥がいた。星野さんは相変わらず「ダンス」にこだわっていたので、追いつめられて、僕は「じゃ、鳥が好きであそこで働いてて、ふざけて求愛ダンスをしている、というのはどうですか?」と。

星野:それが名アイデアだなと思って。

高田:それが出てくるまでは結構キツかったですよね。でも、やってみたら、よかった。監督と星野さんが別々に同じことおっしゃってたんですけど、この話は何かが解決してハッピーエンド、という話じゃなくて、何となく天気がいいね、でも気持ちがいいね、それを感じられることって幸せなことだね、と。僕もまったくその通りだなと思って。でも、それって、話にならないなと思って。

山下・星野:(笑)

高田:泥沼にはまった気分でした。

星野:山下さんにオファーする上でも、かたちになった脚本が必要だったんですよね。そのためにも、高田さんが持っているポテンシャルをすべて出してほしいと思いました。

山下:まあ、僕は『苦役列車』もやってますからね(笑)。あれも、映画にはしにくい小説でしたから。でも今回は、やはりオダギリ(ジョー)さんのケータイドラマ『午前三時の無法地帯』でもご一緒した高田さんもいるし、『海炭市』『そこのみ』のチームとやりたいなと。キャスティングが決まっていく中で見えてきたものはありましたね。最初にいただいた脚本に、すべての要素は入っていたと思います。あとはそれをどう圧縮していくか、ということでした。オレが言ったことは「鈴木常吉さん、入れましょう」ぐらいですね(笑)。スタッフみんなでアイデアを出し合ったことが大きい。羽根が降ってくるところは、投票で決めたんですけど、アイデアを出したのはメイクさんでしたからね。

星野:あと、寝泊まりしている宿で、俳優さんたちの間に生まれた雰囲気。それを撮るのも山下さんは上手いんですよね。むしろそういう空気感を作ることも演出というか。僕もそれは初めての体験で面白かったし、俳優さんたちも面白かったんじゃないですかね。

山下:合宿というかたちはほんとうに良かったですね。

高田:僕が意識していたのは、出てくる人たちはみんな自分が「これからどうなるかわからない」ということ。人生はそういうものだし、それでいいんだと。それは監督も星野さんも同じ意見でした。そして、出来上がった映画は、自分が関わったものの中ではいちばん好きな作品になりました。




前作「そこのみにて光輝く」菅田将暉×池脇千鶴×綾野剛に対し、本作はオダギリジョー×蒼井優×松田翔太で臨みます。

オーバーフェンスとは文字通りそういう意味でした。併せて終盤、優香から結婚指輪を渡されたオダギリジョーが号泣するシーンも「聲の形」で石田くんが号泣するシーンも同じ意味なんだよなぁ。リ・バース。閉塞感を突き破るハッピーエンディング。

山下敦弘監督(40)ですが、監督作品を改めてググりますとまったく意識していないのにかなりの作品を鑑賞していることに気付きました。リンダ リンダ リンダ、天然コケッコー、マイ・バック・ページ、苦役列車、もらとりあむタマ子、そして味園ユニバース。各作品、別になんちゃない平凡な展開で、山もオチもないのですが、長く後味が残る作品ばかり。

中身空っぽ「怒り」に辟易した映画ファンは是非ご鑑賞を。全国80館で上映中です。「怒り」全キャストと蒼井優ひとりが同じ熱量の怪演。「SCOOP」リリー・フランキーにほぼ匹敵。蒼井優お風呂のシーンは原作通り?それとも映画オリジナル?

満足度(5点満点)
☆☆☆

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Posted by kingcurtis 固定リンクComments(2)映画 
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コメント
「リアリズムの宿」もおもろいかったすよね。つげ的世界の微塵もない現代リアルにグッタリ苦笑させられたり。
Posted by 局部 at 2016年10月06日 10:38
つげ忠男原作の瀬々敬久監督作品「なりゆきな魂」も観たよ
来年公開作品なので来年に映画評書く予定
Posted by bob at 2016年10月06日 11:05
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