2016年04月21日

【映画評】ボーダーライン(原題:シカリオ)

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二ヶ月連続でベニチオ・デル・トロ。
【映画評】エスコバル 楽園の掟:Birth of Blues

前評判通りの快作でした。脚本とカメラ割り、音響、そしてベニチオさんの勝利ですね。但しストーリー自体は陳腐。あとタイトルが阿呆過ぎる。本作の真髄を的確に表現したいい原題なのに穢されて残念。

映画『ボーダーライン』|大ヒット上映中!

イントロダクション
この世には社会のモラルや法律がまったく通用しない“闇”の領域が存在する。麻薬ビジネスがとてつもなく巨大化し、テロ、殺人、誘拐、汚職、不法移民といった問題が年々深刻になっているアメリカとメキシコの国境地帯もそのひとつだ。通常のニュース報道ではうかがい知ることのできない麻薬戦争の最前線に迫り、善と悪の境界すらも曖昧な世界のショッキングな現実を、一切の妥協を許さず描ききったクライム・アクション、それが『ボーダーライン』である。


物語はFBIで誘拐事件を担当する捜査官ケイト・メイサーが、秘密裏に編成された特殊チームにスカウトされるところから始まる。チームに課せられたミッションは、アメリカ社会を蝕むメキシコの麻薬組織ソノラ・カルテルの壊滅。持ち前の正義感に駆られてチームに志願するケイトだったが、リーダーの特別捜査官グレイヴァー、謎めいたコロンビア人のコンサルタント、アレハンドロは、なぜか作戦の詳細を教えようとしない。何もわからぬままメキシコのフアレスへ同行したケイトは、人命が虫けらのように軽んじられる暴力が日常化した街のおぞましい実態と、作戦中に手荒な超法規的手段を駆使するチームの方針に戦慄を覚える。やがて法によって悪を裁く理想を打ち砕かれたケイトは、麻薬戦争の得体の知れない闇の奥深くに身を投じ、さらなる想像を絶する真実を目の当たりにするのだった……。

観客はミッションの具体的な内容を知らされぬまま無法地帯に足を踏み入れていく主人公ケイトの眼差しを通して、幾多の矛盾をはらんだ麻薬捜査の現実を目撃し、正義感に燃えるFBI捜査官の驚きや挫折を生々しく体感することになる。世界中で最も危険な街ともいわれるフアレスから国境を越え、アメリカを浸食する麻薬ビジネスの脅威に対抗しうる有効な手段とは何なのか。その目的を達成するためなら、法を逸脱することも許されるのか。死と背中合わせの危うい“ボーダーライン”に観る者を誘う本作は、白や黒に色分けできないさまざまな問題を投げかけながら、ありがちな勧善懲悪ドラマとはかけ離れた常識破りのクライマックスに突き進んでいく。

数多くのTVシリーズで活躍してきた俳優テイラー・シェリダンが、麻薬戦争の被害者であるメキシコからの移民などへの取材を基に執筆したオリジナル脚本を映画化したのは、『灼熱の魂』『複製された男』『プリズナーズ』といった独創性あふれる話題作を連打するドゥニ・ヴィルヌーヴ監督。実現困難とされていたSF映画の金字塔『ブレードランナー』の続編のメガホンを託されるなど、今まさに脂がのりきっているカナダ出身のフィルムメーカーが、映画ならではの極限のダイナミズム、重厚なサスペンス、胸に迫るエモーションを追求。研ぎすまされた演出力に支えられた映像世界は、カンヌ国際映画祭コンペティション部門での上映や全米公開時に大反響を呼び、映画賞レースや有力メディアが選定するベストテンをにぎわせた。

この圧倒的なスリルに満ちた物語を牽引するのは、主演級のトップスター3人が見せる迫真の演技である。主人公ケイトに扮するのは、『プラダを着た悪魔』『イントゥ・ザ・ウッズ』などでゴールデン・グローブ賞Rに4度ノミネートされたエミリー・ブラント。トム・クルーズ共演の『オール・ユー・ニード・イズ・キル』で本格的なアクションを披露したことも記憶に新しい実力派女優が、心が折れるような試練に直面するFBI捜査官の揺らめきをリアルに体現した。コロンビア人であること以外のプロフィールが謎のベールに覆われたアレハンドロをただならぬ凄みを漂わせて演じるのは、麻薬戦争を別の切り口で描いた『トラフィック』でアカデミー賞R助演男優賞に輝いたベニチオ・デル・トロ。クライマックスで“真の目的”が明らかになるアレハンドロの複雑なキャラクターは、『ミルク』『エベレスト3D』のジョシュ・ブローリン扮するタフなチームリーダー、グレイヴァーの言動とともに目が離せない。

国境地帯の荒涼とした風景や不穏な空模様をカメラに収め、臨場感みなぎるヴィジュアルを構築した撮影監督は、『ノーカントリー』『007 スカイフォール』など過去12作品でアカデミー賞R候補になったロジャー・ディーキンス。さらに『それでも夜は明ける』のジョー・ウォーカー(編集)、『プリズナーズ』『博士と彼女のセオリー』のヨハン・ヨハンソン(音楽)といった才気あふれるスタッフが結集し、このうえなく刺激的な映画体験をもたらす快作を完成させた。国境麻薬戦争の「今」を極限の臨場感で捉えたサスペンスアクション。

ストーリー
FBIの誘拐即応班を指揮する捜査官ケイト・メイサー(エミリー・ブラント)は、アリゾナ州の荒野にたたずむ一軒家で信じがたい光景を目の当たりにした。誘拐事件の人質を救出するために強行突入したその家は、メキシコの麻薬組織ソノラ・カルテルの最高幹部マヌエル・ディアスの所有物で、壁の中に数十体もの腐乱死体が隠されていたのだ。しかも離れの物置を捜索中に凄まじい爆発が起こって警官ふたりが死亡し、ケイトも頭部にケガを負ってしまう。

その日のうちにFBIの会議室に呼び出されたケイトは、上司のジェニングス(ヴィクター・ガーバー)から思いがけないことを告げられる。アメリカ社会を蝕むソノラ・カルテルの壊滅とディアスの追跡を専任とする特殊チームが編成され、現場経験が豊富なケイトがその一員にスカウトされたという。その場でチームの作戦リーダーを務める特別捜査官マット・グレイヴァー(ジョシュ・ブローリン)と対面したケイトは、突然の出向要請に困惑しながらも、巨悪を討つ使命感に駆られて「志願します」と返答した。

後日、アリゾナ州内の空軍基地に赴いたケイトは、グレイヴァーに迎えられて小型ジェット機に乗り込む。機内にはアレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)という見知らぬ寡黙な男が同乗していた。行き先はメキシコのフアレス。この日、どのような作戦を行うのか事前に何も知らされていないケイトは説明を求めるが、なぜかグレイヴァーは具体的なことを明かさない。アレハンドロは麻薬カルテルの内実に精通したコロンビア人の元検察官で、コンサルタントとして作戦に携わっているのだという。

ケイトを含む特殊チームの一行は数台の車に分乗し、物々しく武装したメキシコ警察に先導されながらフアレス市内へと向かう。そこでケイトの目に飛び込んできたのは、麻薬カルテルが見せしめのため高架下に吊したいくつもの惨たらしい死体。それはまさにカルテルの暴力に支配された街のおぞましい実態だった。やがてチームがある施設でディアスの兄ギエルモの身柄を引き取ったのち、ケイトはさらなる衝撃に見舞われる。アメリカ国境の手前で渋滞に巻き込まれた際、カルテルの襲撃を事前に察知したチームが猛烈な銃撃を浴びせ、敵を皆殺しにしたのだ。民間人を巻き添えにしかねない無法なやり方に反発したケイトは、グレイヴァーに猛然と食ってかかるが、「これが現実だ。見るものすべてから学べ。君は学ぶためにここにいる」と一蹴されてしまう。

アリゾナ州に戻って相棒のレジー(ダニエル・カルーヤ)と合流したケイトは、グレイヴァーとアレハンドロから次のような重要な説明を受ける。チームの当面の狙いは、カルテルが混乱に陥る事態を発生させ、アメリカのどこかに潜伏しているディアスをメキシコに呼び戻させること。それがうまくいけばカルテルの頂点に君臨する麻薬王ファウスト・アラルコンの居場所を突き止めることができるという。すでにギエルモを拷問で締め上げたアレハンドロは、カルテルがアメリカとメキシコの往来に使用している秘密のトンネルの存在を聞き出していた。

グレイヴァーは前日の宣言通り“混乱”を引き起こすため、金融機関に現れたカルテルの資金洗浄屋を拘束し、ディアスの口座を凍結させた。ケイトはあくまで合法的にディアスを逮捕するよう主張するが、グレイヴァーはおろか、上司のジェニングスさえもそれを聞き入れてくれない。苛立ちを募らせたケイトはレジーを伴ってバーに繰り出し、そこで意気投合したテッド(ジョン・バーンサル)という警官を自宅のアパートに招き入れる。しかし行きずりの情事は、たちまち悪夢に変貌した。テッドは捜査情報を探るために、ケイトに接近したカルテルの内通者だったのだ。カルテルの動きを先読みしていたアレハンドロに危ういところを救われたケイトは、もはや何も信じることができない無力感に打ちのめされる。

翌日、グレイヴァーの思惑が当たってカルテルがディアスをメキシコに呼び戻し、いよいよチームのミッションは最大の正念場を迎えた。出発直前、ケイトはグレイヴァーからある驚愕の事実を告げられ、自分が都合よく利用されていたことにショックを受けるが、捜査の行方を最後まで見届けたい一心で作戦に同行する。しかし、ケイトはまだ何も知らなかった。これからカルテルの秘密トンネルに身を投じる彼女は、いかなる非情な現実を思い知らされるはめになるのか。そして不気味なまでに謎めいたアレハンドロが、この作戦に参加した真の目的とは何なのか……。

プロダクション・ノート

国境地帯のサスペンス
「本作は秘密工作やメキシコの麻薬カルテルの世界を直視する作品であると同時に、アメリカン・ストーリーでもある。つまり、他国の問題に対処する時の理想と現実の衝突を描く」と監督のドゥニ・ヴィルヌーヴは言う。「これは選択を描く映画だ」と、復讐に燃えながらも優しい一面を見せるアレハンドロに扮し、今まで演じた中でも最も葛藤を抱える役の一つに挑戦するベニチオ・デル・トロは付け加える。「『ボーダーライン』に登場するどの人物も真に善人なのか悪人なのか判別が難しい。果たして目的は手段を正当化するのか? 狙いは一人だけなのに、無実の人を20人殺してしまったらどうするか? たった一人を殺す代償をどう考えるのか?」

「ケイトはこの世界に魅せられる」と、全編を通して一刻一刻生命の危機にさらされる気丈な女性という今までとは毛色の違う役に扮するエミリー・ブラントは言う。「ルール通りに行動しても表面をかする事しかできないことに気付き、自分は事態の改善に向けて力になれると信じたいと願っている。でもルールに背かなければならなくなったケイトは、世界が根底から覆され何が何だかわからなくなる。」 すれすれのところを行き来するキャラクターを演じることで知られるジョシュ・ブローリンは、信念を取るか安全を取るか、あるいは犯罪者達との闘いや法からの逸脱が心に取返しのつかない影を落とすのかなど、根源的な問題が根底に潜むこの作品に好奇心をそそられたと言う。「観客が自らつかみ取り、各々に解釈できるヒューマン・ミステリーだ。サスペンスに富み、感情を揺さぶるパズルだ」とブローリンは言う。

麻薬戦争の犠牲者=移民が情報源
幼少の頃は国境を越えてメキシコへ旅することもさほど珍しいことではなかったというテキサス州育ちの脚本家テイラー・シェリダンはこの世界に浸ることに喜びを感じたと言う。TVドラマシリーズ「サンズ・オブ・アナーキー」の副署長デヴィッド・ヘイル役で知られるシェリダンは、探求心に突き動かされ自らのルーツに立ちかえる使命を感じ、ここ10年間立ち入り禁止となっていた地帯に迫ってみたかったと言う。若いころに魅了された異文化の香りの漂う国境地帯は今はもうなかった。 「かつては車で自由に入れたあのメキシコはもうないことに気付いた。今は無法地帯だ」とシェリダンは言う。「麻薬や腐敗が蔓延し、すっかり姿を変えたメキシコ北部の現状を描いた映画がないことにも気づいた。

麻薬カルテルは武装化し、国境のこちら側にも影響を及ぼしており、アメリカ政府は組織的にこれに対処しようとしているが、これを描く映画はない。」 調べれば調べるほど善良な人々が膨大な利益にいとも簡単に屈してしまい、それが今にも爆発しそうな緊張を生んでいることに気付いたとシェリダンは言う。麻薬取引は巨額のビジネスに膨れ上がってしまい、失速することはあるものの、壊滅の危機に陥ったことはないという。 現状に至る経緯を調べていくうちに、それがまるでスズメバチの巣をつっつくような行為だということに気付いたとシェリダンは言う。それはCIAによるスパイ作戦や麻薬取締局による裏取引が繰り広げられ、麻薬ビジネスを詮索するジャーナリストがカルテルに暗殺され、カルテルの敵たちの死体が次から次へと壁に埋め込まれる「死の家」が登場する世界だった。下調べをするにも普通の映画とは勝手が違う。

シェリダンはチワワ砂漠の国境沿いにある町々からリサーチを始めた。太陽を浴びて色あせ、埃をかぶり、サボテンが点在する地帯だった。最初は口を割る人はいなかったそうだ。「国境沿いをずっと伝っていった。カルテル組織員にも、政府関係者にもインタビューをするわけにはいかないので、唯一の方法は、麻薬戦争に最も打撃を受けている移民たちの信頼を得ることだった。彼らはどうすることもできず、アリゾナ州とニューメキシコ州をまたぐ緩衝地帯へ国境を越えて逃げてきた人々だ。彼らが情報源になってくれた」とシェリダンは言う。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が描くメキシコ
ドゥニ・ヴィルヌーヴは張りつめたアクション、倫理の問題、人間の根源的な欲求が交錯するストーリーを長年探索してきた監督である。過去にはヒュー・ジャックマン、ジェイク・ギレンホールを主演に迎え、誘拐された子供を必死に見つけ出そうとする父親を描いた『プリズナーズ』や、中東系の双子の姉弟が謎に覆われた自らの過去を探っていく叙事詩的なアカデミー賞Rノミネート作『灼熱の魂』があり、手ごわいテーマを扱いつつもエンターテインメント性に富む視覚的なストーリーテリングができる監督として高く評価されている。

次回作はハリウッドで長らく待たれていた『ブレードランナー』の続編に挑戦する。 張りつめた感情や手に汗握るアクションや白黒はっきりつけられない倫理の問題をはらむ『ボーダーライン』 を撮らせるなら、十分にその役を担えるヴィルヌーヴ監督に任せるべきだという確信が持てたと制作会社のThunder Road Picturesの創始者ベイジル・イヴァニクは言う。「ドゥニは優雅でありながらも直に感じられるものを仕上げてくれる。また全うな人物の心の闇を描くことに非常に卓越している。」 ヴィルヌーヴはストーリーに瞬時に共感できたという。

作品を撮るにあたり、登場人物たちを断罪することなく、特殊部隊の取った方策に果たしてそれだけの価値があったのか否かの判断は観客に任せようと思ったという。「ここで描かれる世界は灰色なんだ。白黒つけられる領域ではないと最初から思っていた。善悪の観念には必ず文化的地政学的背景が影響する」とヴィルヌーヴは言う。「今もなお拡大しつつある麻薬産業に解決策はあるのか?『ボーダーライン』はそのような様々な疑問を呈するが、答えは観客にゆだねられる。」 「メキシコ北部に限ったことではないが、善悪の境界線はあいまいなものになってきており、ケイト・メイサーのような正義感にあふれる女でも、無傷では済まされない。テロをテロでもって征しようとしても行き止まりに遭うだけだ」とヴィルヌーヴは言う。

「『ボーダーライン』は幻想の話でもある。つまり北アメリカは世界で最も過激な暴力をはらむ問題を効率的に即座に解決することができるはずだという幻想だ。かつてはこの考えに人々は安心を覚えた。だが、世界は段々複雑化している。」 ヴィルヌーヴは加えてこう語る。「人々はスーパーヒーローを必要とする。だが今日の現実世界においては、ヒーローは往々にして潔白ではない。彼らは、悪と対峙する時に最も難しい倫理的な選択を迫られる。『ボーダーライン』に描かれる倫理的な選択は私を魅了してやまない。麻薬カルテルを阻止するのにどこまで踏み込んでいいものか? カルテルの悪に染まらずに征する方法は果たしてあるのだろうか?」

アレハンドロ:味方かただの殺し屋か?
物語の最も不可解なキャラクター、アレハンドロにこそ『ボーダーライン』 の複雑な核心がある。かつては勇敢な検察官だったが、一家を殺され、家族の死を悼む。ケイトに優しさを見せる守り役でありながらも、自らも殺し屋であり、自分の人生を破滅させたカルテルを討ち落とすにはどんな線も超えることを厭わない男である。 脚本のシェリダンはベニチオ・デル・トロを念頭に置きながら脚本を書いたと言う。カリスマ性に富むプエルトリコ出身のデル・トロは、麻薬戦争のまた違う一面を描いたスティーヴン・ソダーバーグ監督による『トラフィック』でティフアナの敏腕警官を印象深く演じ、アカデミー賞Rを受賞している。

今回はうってつけの役だった。 この作品の複雑性に魅かれたとデル・トロは言う。一番響いたのはアレハンドロが過去の自らの行いときちんと折り合いをつけられるのか、あるいは社会のアウトサイダーとして生きなければならないこの境遇は自分の行いの代償だと納得しているのかを問うところだと言う。 「アレハンドロはかつては検察官だった。ところが麻薬戦争に巻き込まれ家族を皆殺しにされてしまい、麻薬王たちを狙う暗殺者に身を転じた。

では、彼は悪人なのか? 私にはわからないね。」とデル・トロは考察する。「今この境遇に置かれているのは、彼が選択を誤ったからではないとは思う。他人が作り出した状況によって止む無くこのような状況に追い込まれた。アメリカ政府から殺し屋として雇われ、血なまぐさい暗黒の世界を生きる。自分なりの動機づけがあって、このような役をかっているわけだが、殺し屋になってしまった今、再び社会への復帰を果たす日は来るのか。これは分からない。」

イヴァニクはこう加える。「ベニチオは“セリフを減らしてくれ。ここは目で演じたい。頷き方や目線の逸らし方で演じてみたい”などと言う。名役者だ。アレハンドロを時に静かに、内面の動きのみで演じるが、急に迫力たっぷりの芝居に転じ、見るものを惹きつける。彼はこの映画の心であり、魂である。」

ケイト・メイサー:境界線を探して
国境を越えてやってきたケイト・メイサーは様々な線を超えなければならない状況に追い込まれる。仕事に懸命で秩序を重んじ、ルール通りに作戦を運ぶことにプライドをかけるケイトだが、なんでもありの世界に投げ込まれる。メキシコを奥へ奥へと進んでいくうちに、自らの指針としていたモラルが瓦解していくのを感じる。作戦を仕切ろうと力めば力むほどコントロールが効かなくなっていく。 アレハンドロ同様、ケイト役のキャスティングも極めて重要だった。

制作者たちはFBI捜査官として強靭な精神力を見せ、大がかりなアクションをこなすこともでき、心が折れるか折れないかのぎりぎりのところも演じられる女優を探し求めた。「FBI捜査官という役にリアリティを持たせながら共感できる女性を演じられる女優でなければならなかった」とヴィルヌーヴは言う。「作戦を傍らで見ていくうちに信念が少しずつ崩れていくので非常に難しい役どころだ。彼女がたどる軌跡は多くの示唆に富むものだ。」 「ケイトはこのストーリーの良心なの」とブラントは語る。「物事の正否や法の秩序に頑なにこだわるケイトを興味深いと思った。ところが理屈など通らないCIA特殊捜査や麻薬カルテルの世界に放り込まれ、ケイトは理解に苦しむ。銃弾一つとっても発砲する際には全責任を負うのがケイトのやり方なのに、男たちは惜しみなく乱射する。自分の知る世界の責任論など一切通用せず、彼女は衝撃を受ける。」

独立心旺盛で離婚したばかりのケイトだが、この世界へ入り痛切に孤独を感じている。正気を保つ唯一の頼りが相棒のFBI捜査官だが、彼はケイトがフアレスで目にしたものを見ているわけではない。一方、ついに崩れたケイトに救いの手を差し伸べるのが彼女の命を救ったアレハンドロのように見えるが、なかなか打ち解けられない二人である。 アレハンドロとの複雑な関係にも興味をそそられたとブラントは言う。「アレハンドロは謎めいた寡黙な男。ケイトは彼をなかなか信用できず注意深く観察する。一方アレハンドロは自らが失った何かをケイトの中に見出したようにも見える」とブラントは推察する。「二人の間には、引き合う磁石のような不思議なつながりがあるのだけど、極限状態にいるので打ち解けることが許されない。でも言葉では言い表せない不思議な引力が働く。」

ブラントとデル・トロのケミストリーを見るのがとても楽しかったとヴィルヌーヴは言う。「二人は奇妙でありながらも不思議な魅力のあるケミストリーをカメラの真ん前で発揮してくれた。この映画にとって非常に大事な要素だった。ケイトはアレハンドロの中にある人間性を見出そうとし、この男の抱える暴力性に美しい詩的な何かを見出す。」

マット・グレイヴァー:ぶれない男
次の重要な配役はケイトを極秘任務にスカウトした捜査官のマット・グレイヴァー役だった。自分なりの思惑もあってケイトを引き込むマットはざっくばらんな性格だが、簡単に真実を打ち明けない男であり、これを演じるには確信と威力を見せることができ、モラルのグレーゾーンに果敢に挑戦してくれる俳優でなければならなかった。

アカデミー賞Rノミネート俳優のジョシュ・ブローリンは、ぎりぎりの線をいくこのような人物を器用に演じることのできる数少ない俳優である。 脚本が送られてきた時は、エベレスト山への遠征から生還したベック・ウェザーズに扮した『エベレスト3D』を撮り終えたところだった。物語にすぐに引き込まれ、良心をあえて排除することを選択し、実利的に問題解決を図ろうとするマットに興味を抱いたとブローリンは言う。 『ボーダーライン』に瞬時に反応した理由を聞くと、「ちょうど大変な映画を撮り終えたところで、テンションが下がりきらず、そのまま熾烈な世界を描く映画に出演し続けたいと思った」とブローリンは答える。

「マットはとても興味深い男だ。果たすべき役割があり、その仕事は正当化できるものと確信している。犠牲の伴う仕事ではあるが、成功すれば何百万もの人を麻薬中毒から救うことができると思っている。」 デル・トロとは何度か共演した経験があるブローリンは、彼と再共演できるということにも魅力を感じたと言う。マットとアレハンドロは表裏一体だそうだ。「アレハンドロとマットには同じ空気感があり興味深かった。二人は完全に対極にいるが、目的は同じなので、お互いの力になろうとする。アレハンドロは多くを語らない男であるのに対し、マットはしゃべり倒す人だ。納得のいく対比であり、そこが楽しい。」

軍事作戦のようなロケハン
メキシコのフアレスはテキサス州エル・パソのリオグランデ川を挟んだ対岸に位置する都市である。だがそこに住む人々からすれば、アメリカはまるで別世界だ。一時は栄えた町も今や「the murder capital of the world(世界で最も危険な殺人の首都)」の異名を持つようになってしまい、多くの住人が恐怖に怯えながら極貧の生活を強いられている。町には外国資本による保税加工工場(maquiladora)の跡地が点在し、当時は貿易都市として栄えたことがうかがえる。ところが行方不明者が後を絶たず、死体が次から次へと発見されるようになり、しまいには新聞の見出しにさえ載らなくなるほど日常化するようになった。

2012年以降殺人件数は減少しているものの、今もなおフアレスはジャーナリストなど町の実態を調べようとする者にとって世界で最も危険な都市のひとつであり、新しいカルテルも台頭しつつある。そんな町で実態を描く大掛かりな映画をいったいどのようにして撮影しようとしたのか? 決して簡単なことではなかった。ロケハンもまるで軍事作戦のようだった。 イヴァニクはこう振り返る。「フアレスで撮ろうと決めたのに、メキシコへの入国を正式に許可してくれる機関が一つも見つからなかった。そこで、数年前にCNNの取材班をフアレスへ連れて行ったというメキシコ人の“フィクサー”にあたったのだが、この“フィクサー”がフェデラレス(federales)と呼ばれる覆面捜査官たちに連絡をとってくれ、その捜査官たちが運転してくれた。前方の座席では短機関銃を携帯しており、万が一誘拐された場合に備えて、コンタクトレンズではなく眼鏡をかけておいた方がいいなどと、やたら詳しいアドバイスをしてくれた。

黒いSUV車に乗っているのは麻薬カルテルで、黒い車に乗ると狙われかねないということで、我々は白いSUV車を使った。」 6時間にわたる緊張の張りつめたロケハンでスタッフが降車を許されたのはたったの2回だったという。イヴァニクはこう振り返る。「停車時間が長すぎたのか、後ろから白いマスタング車に付けられたこともあったが、現地へ行ったおかげでこの映画が撮れたようなものだ。フアレスがどんな町かを直に感じることができた。まさにドゥニが思い描いていた通りの町だった。フアレスの面白いところは、それでも生活が営まれているところだ。子供がボールで遊んだり、住人達が日々の仕事をこなしたりしている。そういう光景がありつつも、闇と犯罪の影に覆われている町なんだ。」

名匠ディーキンスとのコラボレーションが生み出す世界
フアレスに行ったスタッフは一様に衝撃を覚えた。プロデューサーのエドワード・マクドネルはこう振り返る。「フェデラレス達に“安全なエリアはどこだ?”と聞くと、“殺しがなければ安全地帯。殺しがあれば危険地帯”との答えが返ってきた。本当の意味で安全なエリアなどフアレスにはない。ニュースではそういうことは報道されない。フアレスについての報道はせいぜい殺人件数程度だ。住人達の日常など目にすることはない。」 結局フアレスの街中の撮影は敢行されなかったが、フアレスの街並みはカメラでとらえており、映画に登場している。

撮影の大半はニューメキシコ州アルバカーキやテキサス州ニューメキシコやメキシコのベラクルスで行われた。地形に魅了されたヴィルヌーヴ監督は、荒々しく、乾ききっていながらも詩的な情緒のある荒地を撮りたいと考えた。まるでケイトの内面を映し出しているかのような光景だった。監督はビジュアルを完成させるのに、12度にわたりアカデミー賞Rにノミネーションされている撮影監督のロジャー・ディーキンス、アカデミー賞Rにノミネーションされたプロダクション・デザイナーのパトリス・ヴァーメットなど、信頼の置けるスタッフを揃えた。 「本作の色彩や質感はチワワ砂漠に直接インスパイアされたものだ」とヴィルヌーヴは言う。「登場人物たちを太陽に照り付けられたシルエットとして登場させたかった。モンスーンの季節での撮影だったので、毎日雷雲が発生し、目を見張るような空になった。空がまるで物言わぬ第三の登場人物のようで、ケイトが顔に出す苦悩や、ケイトの内面に渦巻く葛藤を詩的に表現しているかのようだった。

砂漠の荒々しく、生々しく、無限に広がる大地が残酷にも人に内省を強いる。国境地帯はそういうところなんだ。それを直に経験した。」 「カット数を抑えたアクション展開を見せたかったので、引きで撮りながら色々と工夫をした。色調は鮮やかな発色の良いものにした。だがビジュアルは全体的にナチュラリズムを意識したものになっている」とディーキンスは説明する。 映画のビジュアルの鍵となったのはベニチオ・デル・トロ扮するアレハンドロだったとディーキンスは言う。麻薬戦争の痕跡が表情や身のこなしに出ていると言う。「『ボーダーライン』の全体のトーンは登場人物たち、中でも特にベニチオのキャラクターが醸し出す雰囲気で色づけられている。個人的にはこの映画は『サムライ』や『仁義』にどことなく似たビジュアルが合うと思っていた」とディーキンスはジャン=ピエール・メルヴィルが60年代に撮った趣のあるクライムサスペンスの名作を引き合いに出して説明する。「これらの作品は冷徹で非情な主人公が登場するが、共感せずにはいられないものだ。」

撮影を終えた後、ヴィルヌーヴは『それでも夜は明ける』でアカデミー賞Rノミネーションを獲得した編集者のジョー・ウォーカーと綿密な作業を進めていき、映画の張りつめたリズムを完成させた。音楽は『プリズナーズ』で組み、一定のビートを刻むパーカッションと魅惑的なメロディで知られるアイスランド人の作曲家のヨハン・ヨハンソンを再び登用した。ヨハンソンは映画の熾烈な展開と漂う情感に見事にマッチングした幽玄なサウンドを作り出した。『ボーダーライン』は麻薬戦争の内情を描く直に体感できる映画だ。難問を突き付けられる世界を見せ、シビアな答えを返してくる。唯一守るべきは「明日戦うために一日でも長く生き延びよ」というルール。そんな世界で人は感情、欲望、モラルなどと向きあうことを強いられ、人間性と精神力を試されるのだ。




冒頭の誘拐捜査シーンから度肝を抜かれますが、その後のエミリー・ブラントの脆弱っぷりが違和感。挙句、飲み屋で初対面の相手に口説かれ、自宅に招き入れセックスするか?常識ある普通の社会人が。しかもFBI幹部捜査官。エミリー・ブラントにはエンディングまで苛々させられっぱなしですが、こういう「バカ女」性格設定とか演出とかこの映画で必要なの?相変わらず怪演のベニチオ・デル・トロにじっくり絞り展開すればもっとよかったのに。

とまれ、車護送シーンは凄くよかったです。ベニチオさんがエミリー・ブラントを銃撃するシーンも痺れた。どうせなら頭狙えよ。

満足度(5点満点)
☆☆☆

尚、本作の監督さんは「ブレードランナー」続編に着手するそうです。

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Posted by kingcurtis 固定リンクComments(1)映画 
Edit








コメント
ベニチオ・デル・トロがよかったです。
エミリー・ブラントにはちょっとお色気が足りませんね。
「スノーホワイト 氷の王国」が楽しみですが。
Posted by worldwalker's weblog(・∀・)! at 2016年04月29日 22:21
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